日本の国内市場は少子高齢化などを背景に、中長期的にみて縮小傾向にあります。このような時代背景から、海外進出に力を入れる会社は確実に増えています。それに伴って日本だけではなく、海外で仕事をしてみたいと思うビジネスパーソンの方が以前よりも増えて参りました。

 しかしながら、単純に国内市場が縮小しているから海外進出というのは、「隣の芝生が青く見えているだけなのではないか?」ともいえます。なぜなら、海外進出は多くのリスクをはらんでいる上、競争も激しく、「最近、みんなそうしているからうちの会社も…」というような浅い考えではうまくいかない可能性が高いからです。

 それでは早速、海外進出を拙速に決めたために、会社も社員も翻弄されることになった実例を見ていきましょう。

盛大な壮行会まで開いてもらったのに
中国行きがまさかの白紙?

 今から約5年前の秋、当時32歳だったAさんは、広告代理店に勤務し、国内営業を担当していました。そうしたなか、以前、中国関連の仕事に携わった経験があったため、その成果を買われ、上海にて中国支社立ち上げを行う部署への人事異動とその後の中国支社への出向を打診されました。

 これまで海外で働いた経験がなく、中国語もほとんど話すことができなかったAさんですが、悩みながらもその打診を承諾。そして翌年2月に中国支社立ち上げを行う「中国準備室」に異動しました。

 自ら立ち上げを行っていかなければならないということで気持ちも入り、さらにこれで一旗あげてやろうと強い意気込みを持ち始めていたAさん。現地に移り住んで立ち上げ準備をする日程が決まり、仲間・同僚から盛大な壮行会も開いてもらいました。

 しかし、荷造りも終わり、いざ出発と思ったときでした。なんと、2008年秋に発生したリーマンショックが会社経営にもダメージを与え始めていたため、親会社の経営陣から突然、中国行きにストップがかかったのです。そしてAさんの中国行きは、一旦白紙になり、泣く泣くまとめた荷物を解くことになりました。