中国が世界の「工場」機能に代わり「市場」機能を強めていくに従って、中国ビジネスでは顧客たる中国人や中国企業に精通する必要があります。それには、中国現地の文化や消費者をよく理解している現地人を経営層に登用することが欠かせません。いわゆる「マネジメントの現地化」ですが、これを成功させるためには、3つの重要な要素があります。

1.ヘッドハントを活用した中国人幹部の登用

 中国がWTOに加盟した2001年末から2010年秋ごろまで、日本企業が活用したのは中国の「世界の工場」機能でした。この場合、中国の子会社の主要な顧客は、日本のほか、アメリカ、EUなど外国にいますから、その要求する品質に合わせたり、要望を聞いたりするのに、日本人幹部が能力を発揮することができたわけです。部材も中国で調達するものの、日本、アメリカ、EUなどの重要顧客の要求する品質に合わせるためには、日系企業から調達するのが安心・安全ですから、購買先とのコミュニケーションを円滑に行うためにも、日本人幹部の役割が重要でした。

 しかし、今後はどうでしょうか。人民元高と賃金の急増により、中国の「世界の工場」機能が急速に衰退し、逆に「世界の市場」機能が重要になりつつあります。この場合、顧客は中国人であり、中国企業になるわけですから、営業を主導するトップが日本人でつとまるはずがない、と思うのです。もちろんコンプライアンスの徹底など営業の適法化、健全化を図るための内部監査的業務であればつとまるでしょうが、「中国人と中国企業にいかに売るか」というフィールドで、語学力、文化精通度等ではるかに劣る日本人は、中国人に逆立ちしても勝てるはずがないでしょう。

 また、中国企業の技術・管理のレベル向上は顕著です。1. 合理的品質(日本が時に追い求めるガラパゴス的な過剰品質ではなく、中国市場で要求される合理的品質)を備え、2. 価格競争力があり、3. 納期が厳格に遵守されるという調達の3要件を充足する中国企業がたくさんあります。特に2. において日系企業と格段の差がありますから、購買先が中国企業に置き換わる例も、今後はいっそう多く見られるようになるでしょう。そうすると、ここでも中国企業とのコミュニケーションでは中国人が優位です。このようにして現地マネジメントに優秀な中国人幹部のいない日系企業は衰退していき、逆に、優秀な中国人幹部がいる日系企業は中国の消費市場とともに成長していくことができることになります。

 ここで日系企業が注意すべきは、日本語ができる自前で育てた特定の中国人ばかりを尊重しないことです。特に本社役員や総経理にゴマをする中国人に完全に取り込まれている例もよく見かけます。一部の中国人は「この人こそ権力を持っている!」と見定めると、銀座のママさんもビックリ!のお調子攻撃を仕掛けてくることを忘れてはなりません。こうした場合、中国人社会での評判やその人をよく知る日本人からその中国人の評価を聞くなどして、よくチェックしたほうがよいでしょう。