金銭的な利益の大きさではなく社会貢献の度合いの大きさを成功の尺度とする社会起業家。日本でも定着したこの起業の形は、様々な分野に広がっています。一般の企業と社会起業家による社会的企業。しかしその2つの企業体には大きな隔たりがあるわけではありません。社会的企業も利益を出さなければ事業を続けることはできません。その一方で、一般の企業も社会に対して果たさなければならない「責任」があります。今回紹介する『レスポンシブル・カンパニー』は、グローバルに展開する大企業でありながら「責任」を再優先する、最先端の企業の形を体現しているパタゴニア社の創業者による一冊です。

環境に与える悪影響を最小限に抑える企業活動
「経済活動で持続可能なものなど存在しない」

 米国アウトドア用品メーカーとして世界的に知られるパタゴニアは、この秋、創業40周年を迎えます。南米の地名であるPatagoniaを衣料品のブランド名に採用したのは、「地図に載っていないような遠隔地」「氷河に覆われた山岳」「ガウチョ、コンドルが飛び交う幻想的な風景」といったイメージと、各国語で発音がしやすいことが決め手になったとされています。

限りある資源と環境と共生するために――<br />パタゴニア社が体現する新しい企業の形イヴォン・シュイナード/ヴィンセント・スタンリー著、井口耕二訳『レスポンシブル・カンパニー』
2012年12月刊行。パタゴニア社の考える社会的責任を表すように、本書も用紙すべてを森林認証のもの、インクすべてを非石油系のものを使用しています。

 パタゴニア社は1993年、アウトドア製造企業としては初めて、消費者から回収/リサイクルされたペットボトルから再生したフリースを使った製品をつくり始めました。その後も、綿素材製品の原料の全量を工業的に栽培されたコットンからオーガニックコットンに切り替えるなど、「最高の製品をつくり、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」をミッションステートメントに掲げて企業活動を続けてきました。

 本書『レスポンシブル・カンパニー――パタゴニアが40年かけて学んだ企業の責任とは』は、そのようなパタゴニアの文化と歴史に触れながら、より責任ある経済活動を実現させるための具体策を自らの経験に則しながら探っていきます。共著者の一人であるイヴォン・シュイナードはパタゴニア創業者でありオーナー。もう一人のヴィンセント・スタンリーはシュイナードの甥であり、長年にわたってホールセール部門のバイスプレジデントを務めました。

 パタゴニアが責任ある企業のモデルだ、などと言うつもりはない。責任ある企業ならやれるはずのことを我々がすべてしているわけではないからだ(我々が知るかぎり、そこまでしているところはない)。しかし、事業を推進するにつれ、自分たちの環境責任や社会責任に人々が気づき、自分たちの行動を変えていく様子を紹介することならできる。(18ページ)

 たとえば、結婚指輪ひとつ分の金を得ようとすれば、二〇トンもの鉱山廃棄物が出てしまう。我々の事業も例に挙げよう。パタゴニアのポロシャツは灌漑農地でつくられたオーガニックコットンを使っているが、このコットンを栽培するには二七〇〇リットル近い水が必要になる。これは九〇〇人の一日分に相当する(ひとり一日三リットル)。綿畑からネバダ州リノの倉庫まで輸送すると、ポロシャツ一枚で一〇キロ近い二酸化炭素が発生する。最終製品の三〇倍にあたる重量だ。廃棄物も、重量で最終製品の三倍にあたる量が発生する。
 いま、人間の経済活動で持続可能なものなど存在しない。
(41~42ページ)