金融機関の営業マンが、中小企業のもとに大挙して訪れている。資金繰りに苦しむ中小企業にとってはなんともうれしい話だが、金融機関の思惑は別の所にあるようだ。

 「地銀をはじめ、これまで全く相手にもしてくれなかったメガバンクなどからも、次々に融資の申し出がある」

 都内のある中小企業経営者は驚きを隠さない。

 この会社はこれまで、何度メガバンクに融資を依頼しても断られ、結果、第二地方銀行や地元の信用金庫としか取引できていなかった。ところが、10月の下旬になったころから、次々に地銀やメガバンクの営業マンが訪れ、「お付き合いいただけませんか」と融資を申し出ているという。

 こうした例は枚挙に暇がない。中小企業側にしてみれば、昨今の景気の悪化に伴って資金繰りに窮しており、まさに「天の恵み」(中小企業社長)とうれしい悲鳴が上がる。

 これまで、中小企業融資に慎重だった金融機関が、態度を一変させたのはなぜか。その理由は、10月31日から拡充された緊急保証制度にあった。

 これは原油に加え、原材料価格や仕入価格の高騰を転嫁できない中小企業者の資金繰りを支援するため、金融機関から融資を受ける際に信用保証協会が保証するというもの。

 これまで185業種に限定していたものを、545業種、企業数にして全国の中小企業の3分の2をカバーする程度にまで拡大した。さらにもう一つ、大きく変更された点が、2007年10月に導入された「責任共有制度」の対象外とするというもの。これに、金融機関側が飛びついたのだ。

 責任共有制度とは、融資の際に保証協会が100%保証していたものを80%に見直し、残る20%は金融機関側に負担させるというもの。それを今回、保証協会の100%保証とした。

 これにより、返済できない場合には保証協会が代わりに返済してくれるわ、審査もほとんど保証協会任せにできるわで、金融機関側にとってみれば「安全で楽な融資」に様変わりしたというわけだ。

 だが、すでに「保証協会の保証があると聞けば、審査なしで何でも貸し、銀行間で保証協会枠の奪い合いになっている」(大手行幹部)という。中小企業支援策が、金融機関のモラルハザードを生む結果となってしまっているのだ。

 10月に入ったころから、「がんがんとっていけ!」と本部から指示が飛んでいる大手行もあるほか、財務諸表などから機械的に融資を判断していたいわゆるビジネスローンを、すべてこの制度を利用した融資に切り替えている銀行もあるほど。

 融資の積極化は歓迎すべきことだが、その末にモラルハザードが高まれば何の意味もなく、金融機関の姿勢が問われている。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 田島靖久)