マーケティングは顧客満足を軸に「売れる仕組み」を考える活動である。今日の売上げを確保するための販売戦略(セリング)とは異なり、継続的に成長していくために、いかに顧客のニーズを満たすかという発想に立つ。

マーケティング思考

 今日、多くの製品はライフサイクルの成熟段階にあり、厳しい競争にさらされている。消費者の見る目が厳しくなるとともに、価値観の多様化や個性化がいっそう進んでいる。こうした環境では、売り手本位の考え方を続けていては、顧客の心をつかむことができなくなり、企業の業績が悪化するばかりか、その存続までもが危うくなりかねない。そのため、売り手の都合を優先させた考え方から、顧客満足をベースにしたマーケティングの発想への転換が求められている。

 マーケティングの活動範囲は営業活動や広告、市場調査などに限定されているわけではない。顧客ニーズを汲み上げ、開発や生産、販売など企業のあらゆる活動をコーディネートしながら、顧客にとって価値のある製品や情報を提供していくという一連のプロセスを計画・推進し、コントロールする重要な役割を担っている。

 マーケティングにはさまざまな定義があるが、本書では「売れる仕組みをつくること」と定義する。これは「売り込む手段」を考えるセリング(販売)とは明らかに異なる考え方だ。セリングの目的は今日の売上げを確保することにあるので、短期志向に陥りやすい。極端に言えば、目先の製品が売れさえすれば顧客との関係は1回きりでかまわないので、顧客の信頼を勝ち得る努力は重視されない。たとえば、観光地の土産物屋をイメージしてみるとわかりやすい。土産物屋は通常、1回の売上げを最大化することのみを考えて、商品を売り込もうとする。

 これに対して、マーケティングの目的は継続的な成長だ。顧客を、企業に長く利益をもたらす存在として、より長期的な関係の中でとらえる必要があるため、「顧客が求めるものは何か。顧客のニーズを満たす製品を提供するにはどうすればよいか」という顧客中心の考え方が常に求められる。多くの市場が成熟期を迎えているが、その中で継続的に成長するには、新しい顧客を増やすこと以上に、既存の顧客に繰り返し買ってもらうことが重要だ。これは観光地も例外ではない。旅行慣れした人が増えた今日、一度来た客に何度も足を運んでもらう努力が欠かせなくなった。土産物屋もリピート客や抜本的な構造変化への対応を検討する必要が出てきた。