組織に働く者を囲む現実は<br />成果を要求しながら成果を困難にするダイヤモンド社刊
1890円

「通常、組織に働く者は、自分ではコントロールできない四つの大きな現実に囲まれている。それらの現実は、いずれも組織に組み込まれ、日常の仕事に組み込まれている。彼らにとっては、それらのものと共生するしか、選択の余地はない。しかも、四つの現実のいずれもが、仕事の成果をあげ、業績をあげることを妨げようと圧力を加えてくる」(ドラッカー名著集(1)『経営者の条件』)

 第1の現実は、時間はすべて、人に取られてしまうことである。組織はすべて、時間泥棒の巣窟と見て間違いない。時間泥棒は、人の時間を泥棒しながら、泥棒しているとの意識がない。何度でも、繰り返し、人の時間を奪っていく。

 しかも、顧客、協力会社、上司、部下、地域、マスコミなど、大事な人ばかりである。

 第2の現実は、日常の業務に取り囲まれていることである。日常の業務は、あとからあとからわいてくる。泥沼に這い込んだようなものである。

 何が重要な問題なのかを知らなければならないのに、日常の業務は、それさえ教えてくれない。

 第3の現実は、組織として人とともに働いていることである。自分の成果を成果たらしめてくれるのは、人である。人が自分の成果を使ってくれて、初めて自分の仕事が組織としての成果となり、組織への貢献となる。

 第4の現実は、組織の内において働いていることである。誰もが、自らの属する組織の内部を直接的な現実とする。たとえ、外を見たとしても、「厚くゆがんだレンズを通してである」。

 成果は、組織の内部には存在しない。内部に生じるものは、努力とコストだけである。

 ところが、最もよく見えるものは、常に内部の世界である。常に耳にするものは、組織内部の人間関係や摩擦、問題や課題、反対やうわさである。

「組織に働く者は、必然的に組織の中で仕事をする。したがって意識的に外の世界を知覚すべく努力しなければ、やがて内部の圧力によって、外の世界が見えなくなる。四つの現実は変えることができない。それらは、避けることのできない状況である。したがって、成果をあげることを学ぶべく、特別の努力を払わないかぎり、成果はあげられないことを知らなければならない」(『経営者の条件』)