若年層の引きこもりや対話下手の主因としてインターネットが槍玉にあげられることは多い。だが、それは謂れなき批判であり、本当の問題は接続環境の違いから生じる子供たちの教育格差だと比較メディア研究の泰斗、ヘンリー・ジェンキンス氏は指摘する。

ヘンリー・ジェンキンス MIT教授
ヘンリー・ジェンキンス MIT教授

 インターネットの普及に伴うデジタル世界の膨張によって、子供もおとなも対面でのコミュニケーションを避けるようになったという指摘を最近よく聞くが、それは本当にとんでもない誤解だと思う。

 そもそもの原因は社会の物理的なモビリティが高まったためだ。多くの先進国で引っ越しはいまや日常茶飯事。米国人に至っては、3~5年ごとにマイホームを替える。近所付き合いは少なくなり、旧来のコミュニティは崩壊した。対面でのコミュニケーションが減るのは自然現象だろう。

 こうしたなか、デジタルメディアはむしろ人びとを孤独感や疎外感から救い出す役割を果たすと考えている。オンラインで結ばれた人間関係は、旅行中だろうがなんだろうが持ち運び可能。カメがその背中に甲羅を背負っているようなものだ。

 このことを誰よりもよくわかっているのは、じつは現代の子供たちだろう。昔は近所の子供同士で遊んでいただけだったのが、今では同じ興味を持つ世界中の子どもたちがネットワークを通じてつながっている。これこそまさにコスモポリタニズムの体現である。正しい使い方さえすれば、インターネットは子供たちがグローバル市民になる格好のラーニングプロセスを提供できるはずだ。

 実際、そうした例には事欠かない。米国に住む十代の女の子は、日本のアニメや漫画に嵌り、本場のオンラインコミュニティに参加したいと考えた。そのため、真剣に日本語を学び、実際に今ではあまたのコミュニティに日本語で参加しているという。