5月9日土曜日の日経新聞1面に、取り扱いは小さいが、投資家にとって重要な記事が出ていた(関連記事は5面)。金融庁が、機関投資家に対し、投資先企業の経営監視を強化させる目的で、議決権の行使状況(議決権をどのように行使し、賛否をどう投じたか)に関する情報開示ルールの創設を検討しているというのだ。

 記事によれば、上場企業のガバナンス向上策を検討している金融審議会(首相の諮問機関)作業部会が6月にもまとめる報告書に盛り込む方針で、信託銀、投信、投資顧問、生命保険の4業界団体に、自主規制ルールの強化を求めると同時に、金融庁の監督指針を改正してチェック体制も強化する考えだという。

 最終的に法令になるのか、金融庁の指導方針にするのか、あるいは業界の自主ルールにするのかは、日経の記事だけでは定かでないが、これら4業界は何れも金融庁に検査される側だから、金融庁が方針として決めてしまえば、それに従うだろう。現在、議決権公使ルールの作成(たとえば、3期連続赤字会社による役員の再任議案に対しては反対票を投じるといった類のルール)、同ルールの公表、個々の議案への賛否を含む議決権行使結果の公表を検討中のようで、どこまでルール化されるのか、注目される。

 実は、年金運用の世界ではかなり前から、運用会社によって議決権行使ルールが作成され、これを年金基金がチェックし、議決権の行使結果について報告させる形でチェックが行われている。企業年金連合会、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)といったコーポレートガバナンスに割合と熱心な年金基金が主導したものだ。運用が非常に低迷していた2000年代初頭に推進されたので、自分たちの運用の失敗への批判を逸らすために、コーポレート・ガバナンスに矛先を向けたような趣があったが、経営者が以前よりも株主を意識するようになったし、一定の貢献があったと評価できるだろう。

 ただ、現在の仕組みは些か中途半端な格好になっている。たとえば、公的年金では、運用委託先の議決権行使方針をチェックするという形で間接的に投資先の上場企業に圧力をかけているに過ぎず、最終的な議案への賛否については意思表示をしていない。直接手を下していないから、民間企業の経営に介入していないというポーズだ。しかし、最終的に具体的な議案に関して賛否をどう投じるべきだと考えるのか自らの判断を示さないかぎり、チェックが十分有効に果たされているとはいい難い。