万年筆が静かなブームだ。入学祝いはゲーム機ではなく万年筆だったというシニア世代から、画一的なデジタルに飽きた若者まで、その裾野は広がる。何より万年筆を滑らす瞬間は、道具と人の関係の原点を見詰め直すよい機会だ。欧州ブランドへの憧れもいまだ健在。その代表がペリカンだ。

 最近は何でもかんでもデジタルだ。普段はパソコンとインターネット頼み。会議の記録もシャカシャカとノートパソコンで取る。「こんなプランはどうかな」とメモを示すと、「そのアイデア頂き」と、部下はちゃっかりスマホで写真を撮る。確かに簡便ではあるが、何かを取りこぼしていないだろうか。

 というわけで、背広の胸ポケットから取り出したる万年筆。手帳にメモしたり、会議資料に手を入れたりして、ささやかに自分の世界を形成してみる。いやビジネスであれ、プライベートであれ、感謝や思いをストレートに伝えたいときこそ、これに限る。

 手になじむ1本の万年筆、これが醸し出すオーラこそ、均質化したデジタル世界にはないものだ。弾力ある金のペン先と、磨き上げられた樹脂製の胴軸。一瞬の躊躇の後滑らかに流れ出すインク。その佇まいは、たとえ同じ品番であっても、どれ一つとして同じではない。頑固なクラフトマンシップと使い手の経年使用が入り交じることで、その個性は進化する。今風にいえば“ユーザー・エクスペリエンス”の多彩さ。万年筆をめでる理由の一つがそこにはある。

2種類の異なる樹脂を何層にも重ね、それを縦にスライスして生み出される独特のしま模様。それを丸めた胴軸部分は、1本ずつ微妙に異なる製品の品質保証の印として、1878年にいち早く商標登録したのは、古来欧州で母性愛の象徴とされてきたペリカンの母子像。現行のマークは2003年より使用

ドイツのクラフトマン
シップが生み出した名品

 もともとは国際的なインクメーカーとして知られていたドイツの名門ペリカンが、満を持して万年筆の世界に参入したのは、1929年のこと。初代モデルはピストンノブのメカニズム誤差が100分の1ミリという驚異的な精度を誇っていた。その品質は今も生きていて、ペン芯は高度1万メートルでもインク漏れを起こさない。

 現在の主力モデルは「スーベレーン」。ドイツ語で「卓越した」「優れもの」の意味がある。その原型は50年代に生まれ、現在でもそのデザインを引き継いでいる。変わらないのは18金/14金製ロジウム装飾のペン先とピストン式の吸入メカニズム。現行モデルには、「M300」から「M1000」まで5種類の胴軸サイズがあり、最大5色のカラーバリエーションと極細から極太までのペン先がある。それらを組み合わせることでシーン別に多彩な使い方ができ、また自分の手にしっくりとなじむ1本を見つける楽しみがある。

上よりM300、M400、M600、M800、M1000。自分の手の大きさになじむ太さと長さの1本を選べる