インドや中国、東南アジアなど、成長著しいアジア新興国への企業進出は増え続けているが、現地企業との契約のこじれや人事労務などの困難な課題に直面するケースも後を絶たない。進出リスクを抑え、チャンスに変えていくにはどのような対策が必要なのか。海外進出する日本企業の現地の法務に精通し、実務経験も豊富な森・濱田松本法律事務所で高谷知佐子弁護士、小山洋平弁護士、トニー・グランディ弁護士、関口健一弁護士の4人のスペシャリストに話を聞いた。

2012年にインドで起きた日系企業の労働者によるストライキ/アマナイメージズ

現地労働者が何に不満を持っているかさえ理解できない

 アベノミクスによる円安基調にもかかわらず、日本企業の海外進出に歯止めが掛からない。少子高齢化で市場が縮小する国内よりも、成長著しいアジアなどの新興国市場に活路を求めようとする動きはむしろ盛んになっている。

 例えば2025年に中国を抜いて世界最大の人口大国になると予想されるインドには、2012年だけで新たに114社の日系企業が進出した(在インド日本国大使館調べ)。足元のインド経済は通貨安や景気減速など苦境に見舞われているが、若年人口の割合が高く、可処分所得年々着実に増加していることなどから、多くの日本企業が長期的な市場拡大を見込んで果敢な投資を繰り広げているのだ。

 だが、日本企業のインド進出が盛んになるにつれ、想定外のリスクも次々と顕在化している。法律や文化の違いに起因する合弁パートナーや現地労働者との摩擦が、進出企業の事業運営や市場開拓を妨げる大問題となっているのだ。象徴的な事件が2012年7月、日系自動車メーカーのインド現地工場で起きた労働者の大暴動であろう。

 ある労働者の仕事ぶりについて、生産ラインの班長が注意したことに端を発するこの暴動は、死者1人、けが人四十数人という大きな被害をもたらした。

「インドに限らず、海外での現地労働者との摩擦は、その国の労働慣習や文化そのものを経営側がきちんと理解できないことが根底にあります。ちょっとしたボタンの掛け違いが、大問題に発展することも珍しくありません」と語るのは、インドのほか、中国、東南アジアに進出する日系企業向けに総合法務サービスを提供している森・濱田松本法律事務所の小山洋平弁護士。

 たとえば、ヒンズー語しか話せない現地労働者とのコミュニケーションが困難であることから、経営者は彼らが何に不満を抱いているのかさえ理解できず、状況が改善されないまま積もりに積もった不満が怒りとして爆発することもあるようだ。

「現地の考え方をきちんと理解し、日ごろから緊密なコミュニケーションを取って経営と生産現場が相互理解を深めることが大切です」と小山弁護士は語る。

東京・丸の内にある森・濱田松本法律事務所

森・濱田松本法律事務所》 
2002年に森綜合法律事務所と濱田松本法律事務所が統合して設立。今回取材した高谷知佐子弁護士、小山洋平弁護士、トニー・グランディ弁護士、関口健一弁護士をはじめ、日本企業のアジア進出サポートに強い弁護士を擁するアジアを代表する法律事務所の一つ。過去の主要案件に、三洋電機の中国ハイアール社への白物家電事業譲渡、アサヒビール子会社による中国食品・流通最大手の頂新グループ持ち株会社への出資などがある。