大切なのはマクロとミクロの両方の視点

 多くの経済現象にはマクロとミクロの視点がある。この2つは矛盾したり、整合性を欠く結果を招いたりすることが少なくない。

 その典型が社会保障政策だろう。社会保障政策の多くの専門家は、それぞれの分野の詳細について熟知しており、重要な指摘をすることが多い。高齢者医療の問題点、介護人材の確保のために必要な政策、予防医療の効果、ICT(情報通信技術)を利用した医療や介護の効率化など、実に多様な政策が提案されている。

 これら専門家による指摘は重要なものだが、その多くはミクロ的な視点に基づいている。ミクロの論点を積み上げていったとき、その結果として見えてくるマクロの姿が、非常におかしなことになるケースがある。社会保障の例で言えば、ミクロレベルでの専門家の提案を積極的に導入しようとすると、結果として財政的に実現不可能な姿になってしまうのだ。

 今や社会保障は日本の財政にとって最大の課題である。ここを健全に運営しないかぎり、日本の財政は破綻してしまう。そうしたマクロの重要な論点は、残念ながらミクロの議論をするときには消えてしまうのだ。

 本連載で取り上げてきた成長戦略にも似たようなところがある。規制緩和や市場開放など、ミクロレベルでさまざまな成長戦略の政策が議論されている。こうした改革論議は非常に重要である。ただ、それがマクロ経済全体から見て、日本経済を成長させていくのに十分なものか、あるいはどのような点がカギになるのか、といったチェックが重要となる。

 安倍内閣では、産業競争力会議がミクロレベルでの成長戦略について重要な役割を期待されている。経済特区、ICTを利用した産業革新、農業の競争力強化、科学技術振興など、さまざまな政策が論議されている。こうした取り組みを通じて、岩盤のような規制が大きく修正されることが期待される。