柳家三三
写真 加藤昌人

 2007年、08年と年間600以上の高座に上った。1日に地方と東京をはしごすることもざらだ。月1回の独演会のチケットは数ヵ月先まで完売状態。江戸古典落語を語らせれば若手随一との評価は、揺るぎないものとなった。落ち着いていながら滑らかな語り口、情景が眼前に浮かび上がるような所作――。そんな玄人好みの自分の芸を「嫌いだ」と、ばっさり切り捨てる。

 小学生で落語本を読みあさり、中学1年生で寄席通いを始めた。卒業時に10代目柳家小三治の門をたたくが、「早過ぎる」と断られた。人付き合いも、人前でしゃべるのも苦手。それでも、「噺家以外は考えられなかった」。ひたすら落語に聞きふけり、高校を出るとようやく入門を許された。

 古典落語の話の筋はおおかた、頭に入っている。だから、ネタの覚えも早いし、しゃべりがつかえることもなく、言葉を自在に操る。「でも、それだけで中身がない」。噺家の人間性、生き方がにじみ出るところに落語の味わいがある。破天荒な人生を歩んだわけでもなく、ただ好きなことを職業として選んだだけの自分。「普通過ぎることが芸人として大きなハンディだし、そのコンプレックスを一生背負い続けるだろう」。

 超人的な数の高座をこなすのは、体力的にも精神的にも自らを極限まで追い込んで、身についた技術や型を取り払い、生身の自分を引きずり出すためだ。それでもなお、その芸が端正さを失わないのは、天賦の才ゆえだろう。


(ジャーナリスト 田原 寛)


柳家三三(Sanza Yanagiya)●落語家 1974年生まれ。93年10代目柳家小三治に入門。前座名・小多け、96年二ツ目に昇進し、三三と改名。2004年にっかん飛切落語会飛切大賞。06年真打ち昇進。07年文化庁芸術祭新人賞。同年公開の映画「しゃべれども しゃべれども」では落語監修・指導を務める。