日内変動、という言葉がある。体温や血圧、病気の症状が1日の中で時間とともに変化することを指す。

 例えば、体温は明け方から上昇し始め、昼から夕方にかけて高めに維持された後、入眠準備のため徐々に下がっていく。生理的・身体的な変動が体内時計にきっちり従っているのは「生物」として納得できる。

 しかし、どうやら高等生物=人間に固有のものとされる「良心」も日内変動するらしい。米心理学専門誌「Psychological Science」掲載の研究から。

 研究者らは、嘘をつく、窃盗、人を欺くなどの“悪い行い”についていくつか調査を行った。一つは学生を対象に複数のドットをモニターに映し、左右どちらに模様が多かったか回答するもの。右に多かった場合に謝礼が支払われるという条件付きにした。

 その結果、明らかに左のドットが多いのにも関わらず「右」と回答した“ごまかし”は、午後~夕方6時より午前8~12時で有意に少なかったのだ。成人を対象にした調査でも同じ傾向が示された。

 ちょっとユニークなのは、「○○RAL」「E○○○C○」の○○を埋める問題で、朝方は「MORAL(モラル)」「ETHICA(倫理)」との回答が多かったのに対し、午後は「CORAL(サンゴ)」「EFFECT(効果・結果)」など実利的(?)な回答が多かった。

 研究者らは「嘘やごまかしを抑える自制心は、朝に最も高く、夕方にかけて低下する」と結論している。朝方には力強く鳴り響いていた良心の声や罪の意識が、昼を過ぎると次第に小さくなり、しまいには「ま、いいかぁ」に取って代わる。生理的メカニズムは不明だが、普段から倫理的な行動規範を守っている人でも、この日内変動は免れないようだ。

 さて、良心にも生物としての限界があるなら、上手く活用するのがいい。部下の報告は午前中に聞き、良心の幅を少々拡げる必要がある商談は午後に、というように。配偶者との話し合いとなると──。午前と午後、どちらがベストかは貴方が置かれた状況次第である。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)

週刊ダイヤモンド