東京電力は22日、今年6月に勝俣恒久社長が代表権のある会長に就き、後任に清水正孝副社長が就任するトップ交代人事を発表した。

 実力社長が会長に就くことで、「院政に近いかたちになるのでは」(電力関係者)との見方が強いが、東京電力は現在、未曾有の難局に立たされているだけに、居心地のよいポストとはいえなそうだ。

 「そろそろ疲れてきた」。

 ある電力関係者によると、勝俣氏は半年ほど前から周囲にこう漏らしていたという。

 実際、交代会見の席で勝俣氏は「昨年6月の時点で辞めてもよかったが、電気事業連合会の会長として、(東京電力社長職を)続けることになった」と、胸のうちを明かした。

 勝俣氏の社長在任時には逆風が吹きつけた。

 2006年末~07年にかけて、東京電力を含む電力12社は、発電設備のデータ改ざんが発覚。

 特に東京電力は02年にもデータ改ざんが露見しており、勝俣氏の経営責任が問われたのだ。だが勝俣氏が辞任となれば他電力への波及も避けられなかっただけに、辞めるに辞められなかった。

 2007年7月には新潟県中越沖地震で柏崎刈羽原子力発電所が停止、その後の対応のまずさもあって批判の矢面に立たされた。その柏崎刈羽原発は現在も地震の影響を調査中で、「再開のメドは皆目見当がつかない」という。

 業績面でも原発停止によるコスト増加で、今年度は28年ぶりに最終赤字に転落する見通しで、来期以降も先行きがまったく不透明なのである。

 新社長となる清水氏は馬力があり、物怖じせず、なんにでも前向きに愚直に取り組むといわれる。「カミソリ勝俣」の異名を持つ切れ者の前任者とは性格が大きく違うが、組み合わせはよさそうだ。

 勝俣氏は今後の自分の役割を「電源地域との人的つながりを引き継ぐこと」としているが、本音を探ると同原発の再開まで自分でけりをつけたいというところだろう。

 院政といっても、勝俣氏が原発関連の問題に専念し、清水氏が業務執行に専念する役回りが明確になれば、いい役割分担といえるかもしれない。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 野口達也)