創業家は安定株主か経営の阻害要因か?

 以前、ザイオンラインのコラムでも指摘したが、もしキリンとサントリーの経営統合が成立していればサントリーの創業家が筆頭株主となることは交渉当初から分かっていた。また、サントリーは非公開会社ではあるものの有価証券報告書提出会社であるため、事前に両社の財務情報から統合比率を推定して計算することもある程度可能であった。

 私がザイオンラインのコラムを執筆した当時は、ざっくりキリン3に対してサントリーが2という数字を弾いていたが、今回の報道によれば、キリンは当初1:0.5を主張し、サントリーは1:0.9を主張し、その後キリンが1:0.75程度まで譲歩したものの、結局両社は歩み寄ることはできなかったとのことである。

 サントリーは以前のコラムの繰り返しになるが、創業家が90%以上の株式を保有しているため、統合比率次第では拒否権を有する3分の1以上の株式を保有する筆頭株主となり得る。したがって、規模ではキリンが勝るものの、株主構成では実態はサントリーの色彩が強い統合会社になり得たわけである。

 日本では、トヨタをはじめ、大企業でも創業家の存在が大きい上場企業は少なくない。しかし、それら大企業においては、創業家の株式持分割合は1ケタであり、資本によって所有権や影響力を維持するのではなく、目に見えない「創業家」という看板と存在感によって、資本の持分割合以上の影響力を行使しているのが実態である。それに比べると今回のキリン、サントリーの場合は、実現していれば名実ともに創業家の存在感は圧倒的に高くなることが想定された。他の上場企業でも、その規模で名実ともにファミリー企業である企業は非常に少ない。

 その創業家の存在を安定的な経営にプラスとなるものと捉えるのか、あるいは、経営戦略遂行の阻害要因となる口うるさい株主として捉えるによって、見方は180度異なる。グローバル企業であるにもかかわらず、株主構成はファミリー企業という企業体がどのような経営戦略を遂行していくのか、非常に興味深いところであったが、我々はそれを見る機会を失ってしまった。

業界全体の海外展開の遅れに市場も反応

 さて、今回の経営統合破談は誰を利するのであろうか。もし経営統合が実現していれば、大きく水をあけられるはずだったアサヒビールなど他の国内プレーヤーが助かったという見方をすることができるかもしれない。