受信料の値下げを検討していた日本放送協会(NHK)が、値下げに伴って発生すると見られる赤字を補填するため、“秘中の秘”に手をつけようとしていたことが関係者の話でわかった。

 次期五ヵ年経営計画を策定中だったNHK。その柱として6.5%程度の受信料値下げを打ち出していた。しかし、最高意思決定機関の経営委員会から「不十分」として突き返され、再提出した妥協案も2007年9月25日に「抜本的な合理化策に踏み込んでいない」として異例の再検討を命じられた。

 それもそのはず。「そもそも根本的な信頼回復策を示さず、受信料の支払率が向上するという数字も根拠なし。値下げによる赤字は必至で、経営責任を問われないよう取り繕う方策しか考えていなかった」(NHK幹部)からだ。

 その方策は、経営委員会にも知らされず、密かに話し合われていた。今年7月上旬に開かれたNHKの役員会の席上、経営企画担当理事の口から、次のような趣旨の発言が飛び出したという。

「基金の550億円を使ってはどうか」

 この理事が目をつけたのは、「経営安定化基金・デジタル化推進対策費」。読んで字のごとく、巨額の費用がかかるデジタル化を推進するため積み立てているもので、国会のお墨付きまでもらっている代物だ。

 この基金550億円を、赤字補填の原資にしてしまおうというのだ。すでに機関決定までしていると幹部は明かす。

「まさに流用。カネに色はなく、補填に充てようが、デジタル化のために使ったと主張すればわからない」(関係者)というわけだ。

 NHKに対する国会などのチェックは予算重視で、決算に対しては甘い。そこを突いて「決算時に基金のカネを潜り込ませ、赤字にならないよう帳尻を合わせるつもりだった」と関係者は見る。

 これに対し、さすがに他の理事から「そんな嘘をついて大丈夫か」との声も出たが、「大丈夫。国会もなんとかなる」「ほかにいい案はあるのか」といった発言にかき消され、そのまま決定したという。

 今回の経営委員会の決定に執行部は反発している。だが、はなから基金を当てにした経営計画だったとすれば、当然の帰結ともいえる。こうした姿勢が明らかになれば、さらに執行部の責任を問う声が高まる可能性もある。
(週刊ダイヤモンド編集部 NHK問題取材班)

※週刊ダイヤモンド2007年10月6日号掲載分