2月初旬、冷え切った日中関係をよそに、中国人旅行客が日本各地に舞い戻ってきた。今年の旧正月は1月31日からであったためだ。都内の大手百貨店のエントランスは中国人旅行客向けの装飾で赤く染まり、テレビニュースもたびたび「買い物三昧の中国人観光客」をクローズアップした。中国人観光客への期待も一時は薄れかけていたが、V字回復の手応えを感じたところも少なくなかった。

 銀座四丁目の「ファンケル銀座スクウェア」でも、中国からの客足が戻ったという。消費金額は、6対4の割合で中国人観光客が日本人一般客を上回り、客単価は日本人の3倍だ。中国語で対応できるスタッフを7人にも増やし、中国人にマッチした接客の研究にも余念がない。

 疑うまでもなく、中国人は現在でも大口顧客、あるいは上客である。観光庁によれば、2013年、訪日外国人の旅行消費額は1兆4168億円と推計され、そのうち中国国籍の旅行消費は2759億円と全体の19%を占めダントツだ。

 香港紙『大公報』のウェブサイトである『大公網』は、「アジア太平洋地域の各国が中国人客を奪い合っている」と報じるように、影響力のある中国人旅行客の獲得は、近年、国を問わず課題となっているようだ。

 しかし、皮肉なことに、中国人旅行客の存在は、「理屈の上では歓迎だが内心は複雑」といった、二律背反する感情を抱かせるものがある。

 年間1億人近くの中国人が海外旅行に出る昨今、日本でもたびたび指摘された“マナー問題”は、世界各地でも顕在化している。シンガポールやタイをはじめとする東南アジア、あるいは欧米でも、痰を吐く、ゴミのポイ捨て、あたりかまわずの喫煙、大声での会話に、地元からの苦情が殺到するなどの影響が出ている。2012年、海外の旅行サイトが行った「世界で最も歓迎しない観光客」に関する調査は、中国人が第2位となり不名誉な結果を残した。

 そうした状況を見かねてか、中国当局は昨年4月に「新旅行法」を制定(11月に施行)し、節度ある行動を呼びかけたが、「世界で歓迎される旅行客」になれるかは、中国にとっても国を挙げて啓蒙を促すべきひとつの課題となっている。