昨年6月に東芝のトップに就任した田中久雄社長は、数ある経営指標の中から総資産回転率を最も重視すると宣言した。田中社長の理想と東芝の現状のギャップを埋める鍵はどこにあるのか。

「車載事業を東芝の4本目の柱にできないか」。東芝の田中久雄社長が早くも新たな屋台骨を探しているという。そして、「有力候補の一つとして、自動車向けに部品やシステムを供給する車載事業に白羽の矢が立っている」(東芝幹部)というのだ。

 “早くも”というのは、CT(コンピュータ断層撮影装置)を中心としたヘルスケア事業を、新たに3本目の柱に据えると昨年8月に打ち出したばかりだからだ。

 しかし、これまで東芝を支えてきた2本柱、原子力発電システムなどのエネルギー事業と、半導体のNANDフラッシュメモリが中心のストレージ事業に比べると、「3本目の柱はまだ割り箸みたいなもの」(東芝関係者)。売上高は4200億円(今期の予想値)で、2本柱の4分の1以下だ。

 事情に詳しい関係者によれば、そのヘルスケア事業と比べても、「車載事業は売上高が小さく、収支はトントンという状況で収益性では足元にも及ばない」という。「4本目の柱になるのは、しばらく難しい」という見立てだ。

「数ある経営指標の中でも、総資産回転率を最重視したい」

 昨年8月に新経営方針を発表した直後、田中社長はそう宣言した。この発言こそが、精力的に4本目の柱を探し回る理由でもある。

 総資産回転率とは売上高を総資産で割った値で、資産活用の効率性を示す指標。これを「1.3回まで上げたい」と田中社長は話すが、10年間の推移を見ると、それは2006年3月期のピーク値だ。その後は右肩下がりで、直近は1.0回まで下がった(図(1))。

 総資産回転率は分子の売上高が増えるか、分母の総資産が減るかで改善する。そこで田中社長の意識にあるのが、現状の資産でいかに売上高を伸ばして効率性を上げられるかだ。今持つ技術を組み合わせて、新しい製品やサービスを生み出す「ニューコンセプトイノベーション」や、各事業部に新市場参入を促す「360度マーケティング」と呼ぶ取り組みを掲げたことからも、それはうかがえる。

 東芝社内の事業の中から、4本目の柱を探す理由もここにある。