大手銀行、セブン‐イレブン、楽天で、人事部長や人事担当役員を経験した渡部昭彦氏に、人事部や人事制度の裏側を教えてもらう連載の第3回。公平かつ厳格に見える目標管理制度の「人間味あふれる」裏側を見てみよう。

管理職の憂鬱

 管理職にとって期末が近づくと憂鬱になることが二つある。

 一つは当期の成績をうまく着地させられるかどうかだ。いまはどこの企業でも、逆立ちしてもできないくらいの大変な目標を経営から課されるので、目標の未達成自体はよくあることだろう。問題は「目標には達しなかったが、まあまあよくやったよな」と思わせるような小技をいかにうまく散りばめられるかだ。「利益額は足りなかったものの、有名企業との新規取引が開始できた」とか「今期は実現できなかったものの、来期には花開きそうな案件を大量に仕込んだ」などなど、文書力、表現力の見せどころである。

 もう一つの悩みは、部下の業績評価作業である。年に1回、または半期ごとの2回の季節作業だ。前述したコンピタンシー評価が年1回で、「部下の○○さんはこの1年間どのような行動を取りましたか」という定性的なものであるの対し、業績評価は、「今期の数字はどうでしたか。きちんと儲けましたか」という即物的なものだ。

 技術的なことを言うと、ほとんどの企業で「目標管理制度」にもとづいた業績評価をしている。目標管理制度は、期の初めに上司と部下が相談して当期の業務目標を決め、期末における達成度合いで評価が決まり、評価結果はボーナスの金額にストレートに反映するとともに来期の昇進・昇格にも一部影響を与える仕組みが一般的だ。

 コンピタンシー評価は構造的に上司の主観性が入りやすいのに対して、業績評価は「客観性」を旨としている。そのため設定される目標は、「より具体的に」「極力、数字で表すことのできるものに」ということが求められる。営業部門であれば、「売上○○百万円達成」を基本形として「新規営業開拓○○件」「顧客訪問件数○○件」から「TOEIC○○点達成」などさまざまだ。本部スタッフや事務セクションは数字の目標設定がむずかしいのだが、そこを無理して「誤謬取引○○件以内」「残業時間削減○○%達成」など、何とかそれらしくつくりあげる。

 期末になると管理職は、部下が自己申告で書き入れてきた目標管理シートを前に腕組みしながら、正直なところウンザリする。それには二つ理由がある。一つは、単純に事務が面倒臭いという論外なもの。だが、「何のために管理職手当をもらっているんだ」と言われてしまうため、決して口には出さない。二つ目は本質的な問題だが、「アレコレ数字をいじっても、優秀な奴は優秀なんだ。結論だけでいいではないか。人事部はじつに教条的だ」という気持ちからだ。