「とにかく市場が活性化しないと生産も雇用も好転しない」(渡辺捷昭・トヨタ自動車社長)

 政府が4月10日に打ち出した「経済危機対策」に盛り込まれた新車買い替えへの優遇措置に、業界の期待が日増しに高まっている。

 なにしろ予算規模は過去最大の3700億円。車齢13年以上のクルマを2010年度燃費基準達成の新車に買い替えれば、登録車で25万円、軽自動車で12万5000円の補助が受けられ、13年未満でも、排ガス性能が四つ星かつ10年度燃費基準+15%以上に達する新車なら、登録車で10万円、軽自動車で5万円の補助が受けられるというものだ。

 先に施行された環境対応車への自動車重量税・取得税の減税措置と合わせ、100万台もの新車需要が見込まれる。記録的な低水準と予測された09年度新車販売430万台をどうにか押し上げる秘策である。

 業界の期待の背景には、同様の措置で先行する欧州で、一定の効果が上がっている事実がある。

 ドイツでは車齢9年以上のクルマを買い替えると2500ユーロ(約32万円)受け取れる補助が1月から始まっており、2月の新車販売は前年に比べ22%、3月は40%も伸びた。フランスは車齢10年以上の買い替えで1000ユーロ(約13万円)の補助、3月の新車販売は8%伸びた。現在欧州では同様の支援を10ヵ国以上が実施しているが、異色は現地通貨の下落が激しいポーランド。隣国のドイツ住民がより安価な新車を買いに出向いた(登録や補助はドイツで受けられる)ため、2月と3月は前年に比べ2%ほど上向いた。

 買い替えの人気車種はなんといっても低価格小型車だ。欧州全体で3月の新車販売台数は対前年比9%減だったが、フォルクスワーゲンやフィアットなど、小型車が得意なメーカーは台数を増やした。低価格なチェコのシュコーダー、ルーマニアのダチア、現代自動車も台数を伸ばし、中古車を買うような低所得層にも新車をもたらした。日系メーカーにも追い風で、スズキは13%増、トヨタはプジョーシトロエンと共同開発した欧州専用小型車アイゴが堅調だ。

 日本国内でも欧州のような効果を睨み、各メーカーは急きょ補助適合車を増やしている。「実質国内に出回るモデルの多くが適合車。ハイブリッド車だけのメリットではない」(福井威夫・ホンダ社長)。

「特定産業へのえこひいき」「需要の先取りにすぎない」との批判もあるが、自動車業界にとって貴重な商機に、早くも火花を散らしている。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 柳澤里佳)