断絶の時代
ダイヤモンド社刊
2520円(税込)

「大切なことは、働く者が辞めて他の職場に移れるようにしておくことである。面倒なく、損をすることなく離脱できるようにしておく。辞められてしまうかもしれないという惧れは、人を大切にする第一歩でもある」(『断絶の時代』)

 雇用関係は、限定的な契約関係である。組織と被用者の双方が、それぞれ独立した存在である。しかも、いつでも関係を終了させられる。

 雇用主からの一方的な雇用契約の解消からは守られなければならない。法律が弱者を守ることは必要である。しかし、被用者の離脱の自由に対する制限も、完全に不法であって、許されるべきことではない。

 しかもドラッカーは、最も危険な制約は恩典の類だと言う。雇用主に縛りつける効果を持つ年金、ストックオプション、退職金など、金の足かせだという。辞めたいのに、辞めるに辞められなくするものだという。

 その種の恩典には、常に疑いの目を向けなければならない。被用者自身が求めるものもある。税制が優遇しているものもある。だが、それらのものはすべて反社会的な制度である。
「中世ヨーロッパの農奴制も、初めは農民が求める恩典から始まった。彼らは領主や修道院に保護を求めた。土地を守ってもらった。無法から守ってもらった。しかしわずか一世代の後には、自由を奪われていた。最悪の足枷とは利己心を利用するものである。これこそ最も警戒すべきである」(『断絶の時代』)