経営者と会計&ファイナンスの関係性に迫るシリーズ4人目のゲストとして、税理士の石本忠次氏に、さまざまな会社に助言を行なう立場からの、経営者、CFO・経理部長の理想像についてお聞きします。石本氏は、税理士の資格を取得後、大手会計事務所での国際税務やM&A業務、ベンチャー企業のCFO、投資会社でのベンチャー投資業務など、会社の内側と外側の両方にかかわる実務を幅広く経験されています。現在は自身の会計事務所を経営しながら、複数のベンチャー企業の監査役も務めており、ベンチャー企業の事情についても興味深いお話を聞くことができました。

未上場企業の財務分析なんて意味がない!?

保田 ところで、上場企業や上場を目指す企業と、未上場企業で財務戦略や気にすべき財務指標は異なりますか?

税理士から見た「良い会社」「悪い会社」石本忠次(いしもと ただつぐ)昭和48年生まれ。税理士。大学卒業後(株)KPMGピートマーウィック入社後、国際税務業務やM&Aアドバイザリー業務に従事。その後、ベンチャーキャピタルにて国内投資部及び審査部勤務後、医療画像ベンチャー企業のCFOとして経営企画・資金調達を経験し、2001年にブティック型会計事務所のメンターキャピタル税務事務所を開業。その後も、非常勤にて三井物産戦略研究所の客員研究員や上場及び非上場のベンチャー企業の社外役員を歴任。その経験を基に、スタートアップ企業から上場企業まで幅広い企業ステージにおけるメンターとして活躍中。

石本 未上場会社には、財務戦略や財務分析と呼べるものって、ほとんどないのかなぁと思っています。上場会社は一定のルールに基づいて決算書を作っているから同業他社と比較できるし、利益の正確性にも一定の担保がされています。ところが、未上場会社の場合は役員報酬を払っているから利益が出ていないだけで、役員報酬を減らしたら利益がたくさん出ますという会社もあります。だから、利益指標なんて出してもほとんど意味がありません。

田中 逆に銀行に良い決算書を見せるために減価償却の計上をやめました、なんてケースもありますよね。減価償却をやめて利益を出しても税金を収めてもらう立場の税務署は全然怒りませんから。中小企業の財務分析を云々してみても、あまり意味がないということですね。

石本 それから、未上場の会社は、管理部門が手薄ですから月次決算ができません。税理士に記帳代行をお願いして、1ヵ月以上たってから月次決算書が出てきました、と持ってこられても経営者は「うーん」となります。

田中 それだと経営陣の意思決定に使えませんね。

石本 あと、未上場と上場の財務戦略の違いというと、資金調達方法に現れます。原則として、未上場の場合は銀行からの借入しか道はありません。上場企業になればマーケットからエクイティ・ファイナンスで調達できます。

保田 債権者である銀行と株主は、見ている財務指標がまったく違いますね。

石本 配当を受ける株主にとってみれば、利益は多ければ多いほど、成長率は高ければ高いほどいい。だから利益率と成長率にまずこだわりますよね。一方、銀行は利益をたくさん出そうが、成長率が高かろうが約定利息以上のものを受け取ることはできませんから、融資期間内に約定金利を含めた元利払いがきちんとできるかどうか、インタレストカバレッジレシオを中心とした、安全度が最大の関心事ですね。

保田 銀行は融資先の成長率よりも安定成長が重要で、株主に配当しようとしたら、「それは内部留保しておきなさい」と株主とはまったく逆のことを主張したりするケースもありますよね。我々が働いていた証券会社でもエクイティで調達する部隊とデットで調達する部隊はまったく違うことを考えています。ある会社が大型買収を発表するとエクイティやM&Aの部隊はワーッと喜びますが、デットの部隊はその会社の社債が格下げされる(大型買収することによって財務内容が悪くなるから)ことを心配して、「余計なことをしないでよ」という発想になります。

石本 そうですね(笑)。