消費税率が引き上げられたこの機会に、改めてわが国消費税制度の課題を整理してみたい。それは「消費税と価格の関係」という問題と、それと関連した消費税「インボイス」の問題である。消費税は価格を形成するコストの一つという認識とインボイス制度があることにより、欧州諸国では価格改定が比較的スムーズに行われ、駆け込み購入やその反動という問題があるにせよ、経済を揺るがすような規模ではない。

消費税と価格の関係

 欧州に暮らし、その後もたびたび欧州を訪ね税制当局と話をして感じるのは、「消費税と価格の関係」がわが国と欧州では大きく異なるということである。

 この点に関して筆者は、第8回(『総額表示』と『外税方式』消費税引き上げにとってどちらが望ましい価格表示か)、第48回(「消費税は転嫁しません」まで禁止する 価格表示規制は民の創意工夫を抑制する)など、たびたび取り上げてきた。

 基本的な考え方は、「自由経済の下では、価格は需要と供給によって決まるのであって、コストだけで決まるわけではない。価格を形成するコストである人件費・原材料費や燃料などが価格変動する中で、消費税率の引き上げだけを、特別なコストとして絶対に転嫁しなければおかしいい、と考えることには無理がある。消費税率の引き上げはあくまでコストの変動の一つである」という立場である。

 一方で事業者間の取引(BtoB)の世界の話では、欧州の消費税制度にはインボイス制度が導入されており、それを活用することで、事業者間の価格転嫁がスムーズに進むような工夫がなされているということである。

 消費税は価格を形成するコストの一つという認識と、インボイスがあることにより、欧州諸国では価格改定が比較的スムーズに行われ、駆け込み購入やその反動という問題は、あるにせよ経済を揺るがすような規模ではない。

 ドイツ、英国の消費税率引き上げ前後の経済指標を見ても、大きな変動は見られない。