万年赤字会社はなぜ10ヵ月で生まれ変わったのか? 実話をもとにした迫真のストーリー 『黒字化せよ! 出向社長最後の勝負』の出版を記念して、プロローグと第1章を順次公開。仕上課長から「赤字の原因は鋳造の技術不足」との指摘を受けた沢井。さっそく鋳造課の言い分を聞くことにする。(連載第1回目、第2回目、第3回目、第4回目、第5回目、第6回目、第7回目はこちら

赤字の理由は本当に鋳造の技術不足なのか?

 社長室に入ってきた阿部は大学で冶金学を専攻した技術屋である。背はあまり高くないが、がっしりした身体に砂と油にまみれた作業服を着て、色の黒い、およそ大学出のエンジニアには見えない男であった。

 眼が大きく、笑うと童顔になって親しみが持てる。例によって沢井がサービスするコーヒーを飲んで雑談しているうちにも、その誠実さ、素朴さが伝わってくる。

 沢井は、この会社を黒字にして、社員の生活を安定させたいと思っている、だからあえて名前をあげて話をするが、その目的のためだから、個人的な感情のしこりを持ってはならない。
 君もまた会社を黒字にするために、思っていることを洗いざらいしゃべってくれと前置きして、昨日の森山課長の話をした。

 阿部課長の大きな眼が伏せられた。
 いろいろな思いが頭のなかを走っているようであった。
 やがて顔を上げて、阿部は次のようなことを言った。