前回および前々回は、会議の落とし穴について紹介した。本連載も残り4回。今回から最終回にかけては、「交渉」に関連する落とし穴について紹介していく。交渉編第1弾となる今回は、「相手の感情を害し、交渉が暗礁に乗り上げる」というケースを見ていこう。

【失敗例】工作機械メーカー営業マン浅野君のケース
「担当者を怒らせてしまった」

 浅野君は1ヵ月前に工作機械メーカー本郷製作所に中途入社してきた若手社員である。前職時代の営業力を買われ、新規顧客の開拓を任されている。

 最初はアポをとることも容易ではなかったが、3年前から納入実績が途絶えている弥生産業に電話をかけたところ、「話を聞いてみたい」という返答があった。

 最初に話をしたのは、弥生産業の製造部の柏部長だ。柏部長は、本郷製作所の新製品の特徴一つひとつに大きくうなずき、最後には「今一番問題なのは生産性があがっていないことだ。これまではコストに意識が行きすぎて、かえって生産性が落ちてコスト高という結果になっていた。そろそろ意識を変えていかなくてはならない。すぐにでもおたくの製品を導入したいね。もともと、おたくとの取引を打ち切ったのは、個人的には間違いだと思っている」

 喜ぶ浅野君であったが、柏部長はこう付け加えた。

 「ただ、条件面等も含め、うちでは、実際の契約は購買部が最終意思決定することになっている。私からも話はしておくので、購買部の駒場部長と条件を詰めてくれないか」

 1週間後、駒場部長との面談を迎えた。その日までに浅野君は上司と相談しながら見積もり提示額や値引きの仕方、値引き限度額といった詳細まで詰めていった。また、3年前の取引中止は、主に駒場部長の意向によるものとの情報も得ていた。

 そして面談当日。駒場氏は、不快感を表情ににじませていた。そして開口一番、駒場氏はこう切り出した。

 「柏部長のところに最初に話に行ったようだね。その後、いきなり柏部長が生産管理課の人間を連れてきて生産性がどうだ、という話をしに来たからたまったもんじゃない。私だって購入コストだけでなく、ランニングコストや生産性向上によるコスト削減も視野に入れた上でいろいろ検討しているんだ。これじゃあ、まるで私が購入コストだけで判断している間抜けみたいじゃないか」

 浅野君は駒場氏の言葉に少し驚きながらも、ちょうど生産性向上によるコスト削減効果に話が及んだので、口を挟んだ。

 「駒場さん、生産性向上によるコスト削減について、参考になる資料をお持ちしました。是非こちらをご覧ください」