福里真一
写真 加藤昌人

 気分を陰々滅々とさせ、人間不信を募らせる事件が、今日もテレビ画面から溢れ出してくる。

 「ニュースと対極のものを作りたい」。そこから生まれたのが、缶コーヒー「BOSS」のCMだ。宇宙人ジョーンズが職を転々としながら、地球人の心温まる一面に接して、ほっとひと息つくシーンは、コミカルで、どこか懐かしい。この大ヒットCMシリーズは放映開始から早3年目になる。

 なぜ、宇宙人なのか。周りに目を転じれば、思いやりを持って、真っ当に生きる多くの同僚や友人たちがいる。だが、訳知り顔で、世の中まだまだ捨てたものじゃない、とぶっては、単なる説教に終わってしまう。人間社会を外側から見て、それを評させるには、もってこいだ。演じる役者は圧倒的な存在感を放つ、ハリウッドの演技派、トミー・リー・ジョーンズ。企画に共鳴し、出演を即断したという。

 子どもの頃から、「観察者として生きてきた」。宇宙人ジョーンズの鋭い洞察力は、自身のそれにほかならない。

 「CMにはクライアントをはじめ、多くの人びとがかかわっている。自分の作品だとは思わないし、そもそもクレジットなど入らない。それがむなしいと思うタイプには、向いてない。だが、映画よりも絵画よりも多くの人の目に触れる。一介の勤め人として始めた仕事だが、こんなにおもしろい仕事はない」。今日もまた、そのCMに心がほっこりした。

(ジャーナリスト 田原 寛)

福里真一(Shinichi Fukusato)●CMプランナー/コピーライター 1968年生まれ。一橋大学社会学部卒業後、電通入社。2001年より、ワンスカイ所属。主な仕事にジョージア「明日があるさ」シリーズ、樹木希林ら出演の「フジカラーのお店」シリーズなど。2001年ACCグランプリ(総務大臣賞)、2007年TCCグランプリほか受賞多数。