ワールドカップ目前になって、ブラジルからは工事の遅れや開催に反対するデモの報道が相次いだ。懸念は経済全般に広がっている。だが、ブラジル・コストと呼ばれる構造問題が存在するにもかかわらず、同国市場や近隣市場の成長魅力から外資参入は引きも切らない。ブラジル経済は内外需に牽引され、着実な成長軌道に復帰する公算が大きい。

イメージとは大きく異なる産業構造

ワールドカップ開幕!<br />懸念広まるブラジル経済の近未来 <br />――日本総合研究所理事 藤井英彦ふじい・ひでひこ
研究・専門分野は内外マクロ経済、新産業動向、金融、税財政、成長戦略など経済政策一般。1983年03月東京大学法学部卒、83年4月住友銀行入行、90年8月日本総合研究所調査部、2000年7月同IT政策研究センター所長、04年2月 同経済・社会政策研究センター所長、05年4月同ビジネス戦略研究センター所長、07年8月同調査部長/チーフエコノミスト、11年7月理事就任、現在に至る。

 サッカー・ワールドカップが開幕し、お祭り気分も高揚してきた。その高まりとは裏腹に、ブラジル経済が揺れている。競技場や観客を運ぶ鉄道で未完成の工事が残るなど、円滑な大会運営を危ぶむ向きもある。懸念は経済全般に広がる。典型が経常赤字の拡大や成長鈍化だ。ジルマ大統領が就任した2011年の半ば以降、先行き懸念からブラジルの通貨レアルは趨勢的に下落傾向にある。輸入物価の上昇が上乗せされてインフレが進み、利上げで成長鈍化に拍車が掛かる。悪循環だ。今後のブラジル経済をどのようにみるべきか。

 最初に、ブラジル経済の特徴をおさらいしておこう。ブラジルといえば、アマゾン川をはじめ広大な国土に肥沃な農地が広がる。 農業国であると同時に、鉄鉱石や石炭をはじめ鉱物資源に恵まれた資源国というイメージが強い。しかし、現実の産業構造はイメージから大きく懸け離れる。

 産業別にGDPシェアをみると、一次産業は1割弱、二次産業は2割強で、6割強が第三次産業だ。さらに業種別にみると、近年、経済構造の変化が進む。三次産業では不動産業やサービス業から、商業や運輸・倉庫業へのシフトだ。背景には消費の拡大や国土開発の広がりがある。

 二次産業では製造業から鉱業へのシフトだ。レアル高や周辺国との取引増加で製品輸入が増える一方、海底油田の開発本格化で鉱業が成長を牽引する。ブラジルは2度の石油危機で深刻なダメージを被ったが、今日、世界有数の産油国に変貌した。