格差の固定化が社会問題化する昨今、無気力な若者が増えている。在日三世として苦労を重ね、一時はホームレスまで経験した兼元謙任・オウケイウェイヴ社長は、コミュニケーションの重要性を力説する。

兼元謙任
かねもと・かねと/1966年愛知県生まれ。デザイン会社勤務の後、起業を試みるが失敗。 2年間のホームレス生活を経て、99年にオウケイウェイヴを設立。2006年名証セントレックスに上場。(撮影:宇佐見利明)

 芸術大学を卒業後、デザインの仕事をしながら、学生時代の仲間と起業を目論んだのだが、仲違いから計画は頓挫してしまった。家庭を顧みず、仲間との活動に給料をつぎ込んでいたため、妻からも見放された。

 妻子を実家に戻し、思い切って上京したものの、当てにしていた職に就けず、自暴自棄になってホームレスに転落。3ヵ月はなにもする気が起きなかったが、持っていたパソコンだけは手放さなかった。

 駅のトイレでパソコンの電源を引き、住所不定のまま、徐々にではあるがウェブデザインの仕事をするようになった。

 もっとも、ウェブデザインはまったくの素人だったので、インターネットの掲示板を通して学ぼうとした。ところが質問しても親切に答えてくれるような人はまずいない。後に、誰もが手軽に質問・回答して助け合う場として、Q&Aサイトを思いついたのは、そんな体験からである。

 結局、ホームレス状態でのデザインの仕事は2年続いた。仕事が安定し月収が30万円ほどになっても住居を持てなかったのは、罪滅ぼしのため、自分の生活費1万円以外はすべて妻に送金していたからだ。

 ところが、じつは妻はそのカネをずっと貯めてくれていた。それが1999年、Q&Aサイト「OKWave」を起こす際の資金となった。今では当サイトの月間総ページビューは1億件に達し、2006年には上場を果たした。

 今の日本は格差社会だというが、「自分がやりたくない仕事はやらない」と言って、その結果貧しいだけのことを、格差という言葉でごまかしているように思える。ネットカフェ難民といわれる人も、ただ仕事を選り好みしているだけではないか。