米原子炉メーカーのウェスチングハウスなど、2000年代後半から数千億円規模の買収を複数仕掛けてきた東芝。しかし今、田中久雄社長は“大勝負”より優先することがある。

「マセラティが欲しくても、お金がないのに買おうとしたら破産するだけ」

 仏重電大手アルストムのエネルギー事業をめぐる争奪戦が、2カ月にわたって繰り広げられた。その売却対象の中でも、東芝が世界展開を目指してきた送配電事業は、「東芝の成長戦略に大きな影響を与える」(東芝幹部)喉から手が出るほど欲しい出物だった。

 しかし、東芝は今回の争奪戦に参戦しなかった。田中久雄社長はその理由について、“垂ぜんの的”をイタリアの高級スポーツカーに例えて表現したのだ。

 田中社長は5月の経営方針説明会において、今後3年間で1.5兆円の投資をすると宣言している(図参照)。ただ、2013年度で営業利益の8割を稼ぎ出した半導体事業は、競争力維持のために巨額投資が必要で、3年間で6000億円を投資する予定だ。

 その残りとなる9000億円こそ、田中社長が今後3年間で使える資金というわけだ。