『史上最大の決断』の発売から2ヵ月が過ぎた。この間、3回の増刷を重ねることができたのは、読者のみなさんのご支援があってのことと深く感謝している。69回目を迎えた8月15日終戦記念日にあたり、第2次世界大戦を振り返る「日本の敗戦から69年目に想う」後篇は、あらためてアイゼンハワーのワイズ・リーダシップについて考えてみたい。

非民主主義国家の手法

 連合国、と一口に言っても、ソ連と中国という非民主主義国家が含まれている。大戦後のこの2国の政策は、民主主義国家のそれとはかなり違っていた。

【特別版】日本の敗戦から69年目に想う<後編>一橋大学名誉教授 野中郁次郎

 最近、中公新書から『スターリン「非道の独裁者」の実像』が出版された。

 『史上最大の決断』ではソ連側の話にあまり触れることができなかったが、この本を読むと、ソ連のリーダーによる強烈な農民への搾取、抑圧に言葉を失う。農民の餓死という犠牲を顧みずに、工業化を徹底していった凄まじさ。そうして培われた工業力があってこそ、ソ連は大戦後半においてもT-34のようなものすごい戦車を量産し続けることができたのだろう。

 大戦前に、スターリンは赤軍の幹部を粛清した。まるで更地に戻すかのような熾烈な粛清により、抵抗勢力になりそうな幹部は一掃された。そして、その後に登用されたジューコフのような若手の将校が近代戦に適応していったのである。

 こうした非情とも思える徹底的な構造改革は、毛沢東が第2次大戦後行った大躍進政策や文化大革命もそうだった。すべての伝統的な階層を取り壊すかのような構造改革の過程を経て過去のしがらみが一掃され、結果として、鄧小平の時に市場経済の導入などの政策を実現できる自由度が確保されたのだという指摘もある。

 第2次大戦後、ソ連と米国は冷戦となり、世界は核戦争の恐怖におびえることとなった。その後、紆余曲折を経て、1991年にソ連は崩壊し、米国の独り勝ちとなるかに見えたが、今では中国と米国が対立する構造ができつつある。かつての同盟国とはいえ、その関係は常に変化している。その変化を察知し未来を描くのが歴史的構想力なのだが、はたして現在の世界のリーダーたちはどのくらいの深さと広さで過去と未来とを見ているのだろうか。