情報を好きなときに好きな場所で取り出し、複製して利用できる。デジタル技術は学びや情報活用の姿を劇的に変えた。しかし一方で、ネット上のブログやフェイスブックを見ていると他人の作品の著作権を侵害しながら情報発信しているケースが目立つ。著作権を守ることと、豊かなIT社会の両立は可能なのか。グローバル時代にあって、映画や音楽、ゲームなどのコンテンツビジネスの熾烈な国際競争にも注目したい。東京理科大学の知財ビジネス大学院の教授陣が現代の喫緊のテーマを解説する『LectureTheater2014』の第1回目は、宮武久佳教授が著作権やコンテンツビジネスの今を語る。

『アナ雪』にパクリ疑惑?
『ライオンキング』と手塚治虫

  2014年になってから、音楽のゴーストライター騒ぎやSTAP細胞に関する若い研究者の論文のねつ造事件など著作権に関係する問題が多くの人の関心を集めました。この夏は、人気マンガ『ハイスコアガール』が、別の会社のキャラクターを無断で使ったという著作権問題で連載がストップしました。海外では猿にカメラを持たせて自分を写させた写真の著作権も話題になりました。

東京理科大学大学院
イノベーション研究科(知的財産戦略専攻)教授
宮武久佳(みやたけ・ひさよし)
元横浜国立大学教授。元共同通信社(記者・デスク)。米ハーバード大学 ニーマンフェロー(Nieman Fellow。全額給費客員ジャーナリスト)、FIFAワールドカップ日本組織委員会チーフプレスオフィサーなどを歴任。国際基督教大学大学院(比較文化研究科)修士課程、一橋大学大学院(国際企業戦略研究科・知的財産法コース)修士課程を修了。著書に『知的財産と創造性』(みすず書房)、『メディア用語基本辞典』(世界思想社、分担執筆)など。現在、日本音楽著作権協会(JASRAC)理事。

 ディズニーの大ヒットアニメ『アナと雪の女王』の予告編が、アニメ『The Snowman』の構成と描写が似ていると制作者が提訴しました。映画やアニメの最新作で、先行作品に似たようなシーンが出てくることは珍しくありません。

 よく知られた例を挙げると、ディズニーの『ライオン・キング』(1994)と手塚治虫(1928-89)のTV版『ジャングル大帝』(1965)。

 ディズニー作品には、エピソードやキャラクター設定、描写の点で『ジャングル大帝』を模倣したと言われました。部分的には「誰が見ても、ジャングル大帝を下敷きにした」と思われるほど酷似しているシーンがあります。このため、日本だけでなく米国でも「ディズニーによる著作権侵害ではないか」と報道がなされました。実際どうなったか。

 手塚側はディズニーを訴えませんでした。このため、法律的な問題には発展しませんでした。日本では、著作権侵害罪は、被害者が訴えない限り、起訴されない「親告罪」だからです。

 もちろん、手塚側は『ライオン・キング』が『ジャングル大帝』を部分的に模倣したことを知っていました。しかし、手塚側は異議申し立てをしなかった。なぜか。

 実は、手塚治虫は長年、ウォルト・ディズニー(1901-65)を私淑しており、一度だけ、手塚の希望でディズニーに面会するに至っています。「ディズニーがいなければ手塚もなかった」かもしれません。例えば、『ジャングル大帝』に、ディズニーの『バンビ』や『ダンボ』の影響がないと言えるでしょうか。