「高島屋が中国進出」の見出しが2月24日の日経新聞1面に踊った。1月の日本全国の百貨店の売上高は6131億円、過去最大(*1)の9.1%減と発表されたその翌日だけに、ある種の期待感とともに紙面を覗き込んだ人も少なくないだろう。2011年、上海市に独資(*2)で営業面積4万平米の巨大店舗を開店するという計画だ。

 まず、注目すべきはその立地。なんとその計画は古北新区で進められているという。古北新区は、09年末にようやく地下鉄10号線が開通するものの、これまでは陸の孤島として敬遠されていた土地である。従来の開発は旧繁華街を中心としたものが主流だっただけに、「西の外れで?」という意外性は否めない。だが古北新区は、実は成熟した富裕層マーケットを持つ“垂涎の好立地”なのだ。

 そもそも古北新区とは、上海市の虹橋開発区の西南に位置する136ヘクタールの土地(*3)で、1986年に上海市政府が開発を批准し、上海古北(集団)有限公司(*4)が主体となって開発を牽引してきた。

 この古北新区の開発は第1期、第2期に分割して行われており、52.3ヘクタールに及ぶ1期は、90年代後半に主要物件が完成。当時、外国人(台湾、香港、マカオも含む)居住区は一般市民の居住区と隔てられており、古北新区がその受け皿としての役割を果たすという時代もあった。

 2000年を過ぎると古北新区も急速に外国人居住者を増やすようになる。早朝、おびただしい数の各国のスクールバスがここに集まり、夕暮れになれば中・英・日・韓と各国の言語で書かれた商業看板が浮き上がる――。上海の中でも、まるで租界のような独特の「国際コミュニティ」を形成するようになった。

 さて、高島屋が出店するのは、第1期開発の東側に位置する第2期の土地で、デベロッパー9社による開発がほぼ完成を迎えようとしているエリアだ。足元半径3キロ圏内は「長寧区」+「隣接区の一部」で50万人を超える市場が見込まれ、専ら住宅開発が先行した古北新区も、上海高島屋が完成する2012年には、7万人のオフィスワーカーが勤務する職住接近の一大エリアに変わると期待されている。

 近年はインド、ロシア、アフリカなどからも駐在員を迎え、よりいっそうのボーダレス化が進む古北新区だが、この国際性と経済力を併せ持つマーケットで一人勝ちを続けてきたのが、実はあのフランス資本の小売業態「カルフール」だ。足元の商圏を重視した外国人向けの品揃えは、外国人に限らず大陸のニューリッチまでも取り込み、カルフール古北店をして「平米当たりの営業効率は世界トップクラス」と言わしめるまでに押し上げた。高島屋が“垂涎の好立地”と認識するその奥にはこうした事情も見え隠れする。同社も「こうした立地特性を最大に生かしての、アッパーに絞り込んだ商品構成を組んでいく」(広報・IR)考えだ。

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(*1)数字は日本百貨店協会まとめ。日経MJ(流通新聞)によれば、1月としては1965年に現在の方法で統計を始めて以来最悪の減少率。
(*2)独資の進出。運営母体は(株)高島屋25%、シンガポール高島屋50%、東神開発(株)25%と運営母体は日方100%。(*3)虹許路、姚虹東路、延安西路と虹橋路、古羊路に囲まれた136ヘクタールの土地。
(*4)上海古北(集団)有限公司は、今回高島屋が出店に際して将来の賃貸借契約を見据えた基本合意を結んだデベロッパーでもあり、現在、親会社の中華企業有限公司とともに大型複合ビル(古北国際財富中心、虹橋路×伊梨路)を建設中である。
(*5)上海高島屋の入居する物件で、オフィス、商業部分など含めて19万m2。