誘導尋問はやめろ。もう、いいかげんにしろ――。

 マツダの井巻久一社長は思わず声を荒らげた。10月30日の決算発表の後、詰め寄った記者団に対し、思わず発した言葉だった。記者団の関心は、ただ一つ。10月上旬以降、相次いで報じられている親会社の米フォード・モーターによるマツダ株の売却。経営危機に陥ったフォードがマツダ株の一部の売却を検討しているとされる問題だ。

 普段は気さくな人柄とユーモア溢れる対応で知られる井巻社長。それだけに、「立場上、否定も肯定もできない」「フォードとの関係は変わらない」との返答に終始し、いつもと違うぎこちない態度は、かえって事態の混乱ぶりを印象づける結果となった。

 実際、株売却の話は、既成事実化しつつある。フォードが話を持ちかけた先は何十社にも上り、商社や損保などの大手企業にとどまらず、本社のある広島県の地元の銀行、年商1000億円にも満たない小規模なマツダ系部品メーカーまでと、じつに幅広い。

  ある部品メーカーでは「出資比率0.1%、額にして2億円程度を引き取る方向で検討を進めている」(関係者)。株の売却案件にしては、あまりにも小口で、「売り先に困っているフォードの状況が透けて見える」(同)。

 さて、今回の事態、マツダ社内ではどう思われているのだろう。

 「フォードの生産効率を上げるために、いいように利用された」「強引に特定の部品を指定され、故障が相次いだ」「タイ工場の計画決定の際は、フォード側にかなり無理を強いられた」などフォードに対する過去の恨みつらみの声は少なからずあり、「フォードの呪縛から解放されるとしたら、正直なところ、うれしい」と率直な声があるのも事実だ。

 もっとも、マツダの足元を見れば、そんな余裕はないだろう。

 まず、マツダが自社株買いを強いられる場合、9月末時点での現金・預金は1124億円と、今年度予想売上高3兆円の半月分にも満たない額であり、あまりにも心もとない。海外戦略の面でも不安が残る。「フォードはマツダの海外展開をカバーしてくれたが、現在のマツダでは支え切れる人材がいない」(マツダ関係者)。

 特に、開発面では深刻。単独では開発費の資金調達が困難になるうえ、すでにフォードとは、車台をはじめ、多くの共同事業が進行、有形無形の取引が行なわれ、「今ではどこまでがマツダで、どこからがフォードか、わからないくらい深く入り組んでいる」(井巻社長)。ひとたび資本関係が切れれば、「マツダはフォードのサプライヤーとしてシビアな交渉を強いられる」(別のマツダ関係者)。

 現実化した場合、マツダにとって早過ぎる親離れなのは間違いなく、新たな提携などの対応が求められそうだ。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 山本猛嗣 )