投資環境の不透明感が強まるなか、株式市場の下値不安は強い。だが東証一部の配当利回り平均が長期金利を上回り(7月4日現在)、株式の割安感は強まっているようだ。大きく売り込まれる場面では、「利回り」が下値を支える銘柄をジックリ仕込んでおきたい。

株主還元姿勢で見る注目銘柄 株主還元利回りに注目 しかし今回は配当利回りではなく、最近、わが国でも注目が集まっている株主還元利回りに注目したい。これは株主還元全体額に対する利回りで、具体的には「配当+1株当たりの自社株買い」を株価で割って算出する。

 自社株買いは配当と並び代表的な株主還元だ。自社株買いをすれば、株主が保有する1株の価値が上がり、株価の上昇が期待できるため、増配と同じ意味を持つ。最近、企業の配当性向(1株当たり配当÷1株当たり利益)だけでなく、自社株買い性向(1株当たり自社株額÷1株当たり利益)の上昇が注目される(右図上グラフ参照)。これは近年、市場で株主還元がテーマとして注目されていることが背後にあるが、それだけではない。

 企業は、株価が実態価値より安くなると自社株買いを行なうといわれている。企業は一般の投資家に比べ、自社に関してより多くの情報を持っている。だから自社株買いが多いことは、株価が割安であることを公表しているものと考えられよう(投資理論の世界ではアナウンスメント効果という)。

 したがって、株主還元全体として見るという観点に加えて、割安株のシグナルとしても自社株買いをとらえる必要がある。さらに、株主還元の観点で見れば、これらを合算した株主還元利回りを見る必要があるだろう。

 今回は株主還元利回りと株主還元性向(配当性向+自社株買い性向)の2つが共に高い銘柄を選んだ。株主還元額は過去3期の平均を取った。また配当は予想値を用いている。まず、各尺度でそれぞれ、東証一部上場企業を2つのグループに分ける。両方とも高いグループの過去1年間の平均収益率は全体の平均を年率で3%上回った(右図中央の表参照)。水準自体はそれほど高くはないが、過去1年でも安定した収益が得られる。

 そこで、これらが共に高いグループのなかで、株主還元利回りが高い銘柄をピックアップした。付加的に利益率の水準も選別に加えるため、東証一部上場企業でROAが上位3分の2に入る銘柄から選別を行なっている。

 株主還元姿勢が強く、そして株主還元が下値を支えて市場への割安アナウンスがある企業として注目したい。

(大和総研投資戦略部チーフクオンツアナリスト 吉野貴晶)