今回提案する「エネルギーでマーケティング」の例は、第1回で登場した「風で織るタオル」のように、製造や運搬の過程で使われるエネルギーの特徴を、提供する商品の付加価値にするものです。電力そのものは、商品の中身に成分として残っているわけではありません。しかしエネルギー選択に表れる企業姿勢や商品に込められた思いを、ブランド価値として伝えることができます。

製造過程で使う
「電力」の出自にこだわる

連載第1回で「将来、電力はいまの『水』のようなものになる」と説明しました。かつて「水」と言えば水道から出る「水」のことでしかありませんでしたが、いまは国内外各地にさまざまな「名水」が存在し、それらを自由に選んで飲むことができます。同じように電力も生産地や生産方法によって細分化・差別化され、例えば原産地ごとに、カウンター越しに「○○産の電力を○kW」というオーダーができるようになる。そんな予測を掲げました。

 今回は、この電力の選択肢の細分化・多様化と、そこで生じる新しい価値をマーケティングに活用すること、すなわち「エネルギーで、商品のブランド価値を形成する」ことに注目します。

「水」の場合も、「どこの水を使っているか」で商品をアピールする例がたくさんあります。ビールや清涼飲料、豆腐といった飲料・食品はもちろん、石けんや化粧水まで、原料の水に何を使うかを商品訴求上の重要なポイントにしている商品が多くあります。

 同様に電力の場合も、商品を作るのに使用する電力の出自がその商品のアピールポイントになると考えられるのです。

 直接口にする、あるいは肌に触れる商品だからこそ、使用する「水」にこだわるのは、製品開発上当然あり得る話でしょう。一方で、使われる「電力」にこだわり、そこをアピールしたとしても、製造された商品に「電力」は残っていない。そのことだけを捉えれば、「電力」にこだわるのは、水源にこだわる場合と比べて商品の本質には何ら関係がないのではないか。そう捉えられてしまうかもしれません。

 しかしながら、水源にこだわる場合と比べても、製造過程で使う「電力」で差別化することは、提供する商品へのより深い思い入れを発信することになります。

 なぜなら、「水」の場合は、原料の一部に工夫を施すことに過ぎません。それに対して「電力」による差別化は、製造過程におけるメーカーとしての企業姿勢、商品提供や事業活動上の理念を顕在化させるからです。その企業がどんな製品を世に送り出し、消費者に使ってもらいたいか。消費者のために製品を作り届けるまでの基本理念が電力選びに表れている。だから「電力」に着目し出自を冠するのは、商品の深い部分をアピールすることになるのです。