同じ遺伝子を有し、自然界のクローンとも言われる「双子」。だが、これまでに出会った双子を思い返してみると、不思議なことに気づかないだろうか?
「果たして双子は、『クローン』と呼べるほど『同じ』なんだろうか?」
体重差が27キロある双子、一方だけが乳癌になった双子、ゲイとストレートの双子……。本連載に登場する、「同じ遺伝子を持ちながらまったく違う双子」は、遺伝子だけでは説明できない「何か」の存在を教えてくれる。
このような、遺伝子によらない遺伝の仕組みが、いまや生物学・遺伝学だけではなく、長寿や健康、ガン治療などの観点からも注目を集めている「エピジェネティクス」だ。『双子の遺伝子』が日本でも発売された遺伝疫学の権威が、「同じなのに違う」双子の数奇な運命を通して、遺伝学の最前線を紹介する連載第4回。今回登場するのは……。

ドロシーとキャロルの場合
――同じものを食べてきたのに体重差27キロの双子の姉妹

ドロシーキャロルは双子だが、赤ん坊の頃からドロシーのほうが太っていた。57歳になった現在、身長は同じ173センチメートルだが、体重は27キロの差がある

「いつもわたしのほうがよく食べるので、よく食いしん坊と言われたわ」とドロシーは言う。「キャロルもわたしも、食べるものには気をつけているけど、確かにわたしのほうがすこし多く食べているわね」

 ふたりは、食べる量や内容に大きな違いがあるとは思っていない。「同じようなものを食べてきたわ。とてもヘルシーなものをね。父親が家庭菜園をやっていて、新鮮なくだものや野菜をたくさんくれたから」とドロシー。「わたしはトマトのアレルギーで、キャロルはチキンのアレルギーだけど」。ふたりは性格が似ていると思っているが、キャロルのほうが社交的で、友だちのタイプは違っていた。「運動量も同じくらいね。わたしは水泳、キャロルはヨガとウォーキング。子どもの頃は、スポーツはあまり好きじゃなかったわ」

 幼い頃のふたりは、自転車に乗ることも、探検することも、ふたりだけで遊ぶことも禁じられていた。「父がかなり過保護だったの。と言うのも、わたしたちが育ったのはイングランド北部で、近くでメアリー・ベルの事件が起きたから(1968年、10歳の少女メアリー・ベルが3歳と4歳の男児を殺害した。メアリー自身もひどく虐待されていた)」とキャロルは振りかえる。

 彼女らには妹がふたりと弟がひとりいる。妹はどちらも背が低く、太っていて、弟は背が高く、やせている。ドロシーとキャロルの健康状態に大きな違いはないが、ドロシーは35歳で子宮摘出術を受けた。彼女によると、1990年代半ばにはそれが「流行」だったのだ。「その後、急に体重が増えだしたわ」とドロシーは言った。

「体重に差があるのは、代謝が違うからだと思うの」とドロシー。どちらもアルコールはあまり飲まず、タバコも吸わない。キャロルの考えは違っていた。「たぶん、食べ物のアレルギーのちょっとした違いが、体重に大きく影響したのよ」。40代の頃、キャロルは、サセックスで民間療法を指導している栄養士のもとを訪れた。初期の更年期障害があり、また、体重が57キロから70キロに急増していたからだ。彼女の話を聞いて、栄養士は軽度のグルテン・ラクトース不耐症だと診断した。グルテンは小麦由来、ラクトースは乳製品由来である。血液検査の結果も診断と符合したそうだ。

 キャロルは、その1年前から別の食事療法と食事制限を試していたが、効果はなかった。しかし、今回は違った。「アドバイスされた通り、乳製品と小麦製品を一切とらないようにしたら、まもなく心も体も楽になって、体重のほうも60キロまで減って、それを維持できているわ」

 一方でドロシーは、同じことを試す必要を感じなかった。キャロルとドロシーの好物はライスプディングだが、キャロルは今では豆乳でそれを作っている。どちらも、食べ物の好き嫌いはほとんどなく、イカが食べられないくらいだ。どちらもかなり幸せで、生活に満足している。頻繁に会うわけではないが、1日おきに電話で話している。