9月19日に中国Eコマース企業であるアリババ(阿里巴巴、Alibaba)は、アメリカ市場でIPO(新規株式公開)する。資金調達額は240億ドル(約2兆5000億円)と見込まれている。中国のIT企業が国内で大きな成功を収め、アメリカか香港市場で株式公開するという夢をかなえた事例である。アリババは設立当時から投資家の孫正義氏から多大の支援を得ている。ただし、中国国内で利益を獲得して株式をアメリカで公開し、海外の投資家に利益を配分していくという、いつものパターンは何も変わっていない。(在北京ジャーナリスト 陳言)

中国民間が生んだ
世界最大級のIT企業

 中国では、鉄鋼、エネルギーなどの産業は政府の統制が厳しく、ほとんど民間企業が参入するチャンスがない。小売業などは参入可能だが、地域をまたいで、いくつもの産業の製品を取り扱うことはあり得ない。少なくともイトーヨーカ堂、セブン-イレブンなどのようなチェーン店は中国にはない。

 しかしIT産業については、北京の中関村や地方で数人で起業し、そのIT企業が政府の干渉を受ける前に大きく成長していく可能性がある。たとえば、ポータルサイトの搜狐(Sohu)が2000年7月に株式をアメリカで公開し、その後2005年7月にビルのエレベーターで広告を展開する分衆伝媒(Focus Media)や、同年8月に検索エンジンの百度(Baidu)がアメリカで上場した。

 9月19日、中国の地方都市である浙江省杭州市に本社を置くアリババも、アメリカのNY市場に上場する。同社の2012年の売上高は1700億ドルだったが、2014年には4200億ドルに躍進して、アメリカのAmazon(2013年売上が744億ドル)やEBay(2013年160億ドル)とは桁が違う。アリババの新規株式の公開によって、同社は240億ドル(約2兆5000億円)の資金を調達するとみられている。アリババは、アメリカのIT企業が株式を公開する場合よりはるかに大きな資金を調達することになる。

 中国では政府のコントロールが厳しくない分野から、どんどん世界的な企業が出てくる。銀行、鉄鋼、石油の分野でも、世界規模から見て巨大と思われる企業が中国にはある。しかし、それらの企業は国内独占はできても、世界的に通用する新商品、新しいビジネスモデルを作り出したかといえば、ほとんどない。

 しかし、IT企業の場合は違う。もともとの技術はアメリカなどから導入したかもしれないが、ポータルサイトなら新浪(Sina)、Sohuがあり、検索エンジンならBaiduが業界で大きく、日本などではあまり見ないエレベーターのドアに液晶テレビを設置しどんどんコマーシャルを伝えるFocus Mediaもまた中国では大成功している。

 騰迅(Tensent)は、WeChatというチャットサービスなどでもたいへん成功しており、日本のLineと十分競合できるまでに成長している。