日本銀行の「金融市場レポート」7月号に「金融不均衡の蓄積と混乱発生メカニズム:先行研究に基づく整理」と題する、小論ながら興味深い考察がある。

 この論考は、クレジットブームの起点の1つは「金融分野における技術革新や規制緩和」だという。確かに過去20数年間に、先進国の経済変動はかつてよりも小さくなっているのに、大きな「バブル」や「ショック」が何度も起こった。金融的イノベーションが、実はバブルの発生に深くかかわっているのではないかという指摘が増えている。

 論考は、証券化、クレジット・デリバティブ、組成販売型金融仲介モデル、ヘッジファンドを挙げている。いずれもサブプライム問題を拡大した道具立てだ。金融新技術自体は役にも立つし、それ自体が悪いわけではない。これらを使う人間が悪いのだ。

 新技術や規制緩和がもたらした収益機会を前に、銀行や市場参加者の「リスクテイク行動が前傾化」するというのが、論考が指摘する次のステップだ。不動産や金融資産の時価上昇は、貸し出しの積極化やレバレッジの拡大につながる。

 さらに、市場参加者のリスクテイクは「リスク認識の限界」から過度に進む可能性があり、また、緩んだリスク評価が「群衆行動」によって見過ごされる傾向がある、との指摘が続く。

 金融市場を大きく眺めると、ここまでの過程は論考のとおりなのだが、金融の現場をミクロ的に見ると、じつは「リスク認識の限界」は金融市場にかかわる個々のプレーヤーが意図的につくっている。

 ここで「プレーヤー」とは、会社単位を指すのではなく、投資銀行のトレーダーとか、格付け会社の経営者とか、ヘッジファンドのファンドマネジャーのような金融にかかわる個人のことだ。