宿願だった贈与非課税拡充に<br />信託銀・地銀が及び腰のなぜ贈与の非課税枠を拡充し、それに応じた信託商品の創設を求めてきた信託業界だが、現場では商品の設計改善を求める悲鳴が上がる
Photo:REUTERS/AFLO(左)、Photo by Ryosuke Shimizu(右2点)

昨年4月から大々的に始まった教育資金贈与の非課税化。それに乗じた信託銀行などの新商品は反響を呼び、結婚や子育てにも広げる機運が高まるが、なぜか銀行界が及び腰だ。

「税務署には俺が話をつけるって言っているだろう! いいから金を払え!」

 気が重い──。そう思いながら、ある大手信託銀行の関係者がかけた電話は案の定、顧客の怒りを買ってしまった。

「“あれ”を始めてから最悪だ。いったいこれで何度目だ……」。この1年半ほどで鬱憤は積もりに積もっているが、それを心の中に抑え込み、お金を払えない理由を説明するほかなかった。

 これと似たようなことが、他の信託銀行や地方銀行でも頻発しているという。お金を貸す、預かる、金融商品を売る。それらが主な仕事の銀行が、なぜ顧客に「金を払え」と言われるのか。

 こうした騒動の発端となっているのが、「教育資金贈与信託(地銀の場合は預金)」という商品だ。

 2013年度の税制改正で、教育目的の資金を1500万円まで、祖父母から孫へ税金がかからずに贈与できるようになった。信託業界などがかねて要望してきたことでもあり、これを受けて鳴り物入りで誕生した看板商品だった。

 祖父母から預かった教育資金から、支払った教育費に応じて孫(実質的にはその親)に払い出していく仕組みで、節税になる顧客が喜ぶのは当然だが、信託銀行・地銀にとっても大きなうまみがある。「祖父母、親、孫という3世代の橋渡しとなる」(別の大手信託銀行関係者)からだ。

 信託銀行や地銀の重要な顧客層にお金持ちの高齢者がいるが、彼らが亡くなったときに親世代へ遺産が相続されると、取引が途絶えてしまうことが課題だった。若い世代にはなじみが薄い信託銀行や、地元の近くでしか見掛けない地銀ではなく、メガバンクなどに預金を移されてしまうからだ。