ともにお客様や視聴者から、一瞬にして信頼を得なければならない立場にあるリッツ・カールトンとNHK。
アメリカのプラザホテルなど、世界の有名ホテルを渡り歩き、ホテルマンとしてはリッツ・カールトン日本支社長までのぼりつめた高野登氏。そして、NHKのニュースキャスターとして17年、現在はスピーチコンサルタントとして日本全国でセミナー・講演をしつつ大学で教鞭をとる矢野香氏が、人から信頼を得るための秘策を公開する対談の後篇。前篇では、両者ともお客様や視聴者からの信頼を得るうえで、さまざまな共通項が見られた。
ビジネスを円滑に進めるうえで何よりも大事な「信頼」を構築していくために具体的にどういう努力を積み重ねているのか。その具体論で、二人のトークはさらに盛り上がっていった(構成・鈴木雅光)。

【第10回】<br />「リッツ式」か?「NHK式」か?<br />一分で一生の信頼を勝ち取る法<br />高野登×矢野香対談【後篇】高野 登(たかの・のぼる)
1953年、長野県戸隠生まれ。ホテルスクールを卒業し単身渡米。NYプラザホテルに勤務した後、LAボナベンチャー、SFフェアモントホテルなどでマネジメントを経験。リッツ・カールトンでサンフランシスコをはじめ、マリナ・デル・レイ、ハンティントン、シドニーなどの開業をサポートしつつ日本支社を立ち上げる。リッツ・カールトン日本支社長として1997年、ザ・リッツ・カールトン大阪、2007年にザ・リッツ・カールトン東京の開業をサポート。リッツ・カールトン退社後は、全国で講演・セミナーをしながら、企業、病院、学校、地方自治体などの組織づくりをサポート。同時に「寺子屋百年塾」を立ち上げ、独自の勉強会を主宰。著書に『リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間』『リッツ・カールトンとBARで学んだ高野式イングリッシュ』など多数

「リッツ式」も「NHK式」もコツコツ型?

矢野 リッツ・カールトンはホテル業。私がいたNHKはマスメディアで、職種はまったく異なるのですが、信頼を得るための方法論が驚くほど共通していることに驚きました。ホテルもマスメディアも、一見すると華やかな世界のようですが、コツコツ積み重ねていくことが信頼感につながっていくという意味では、実は驚くほど地味な世界のようにも思えます。

高野 そうですね。具体的にどんな積み重ねがあるのか、ということですが、ここで私はマニュアルの効用について考えてみたいと思うのです。というのも、リッツ・カールトンではマニュアルが徹底されていて、まずはそこに書かれていることを徹底的に順守させられます。だから、他のホテルからリッツ・カールトンに転職してきた人に言わせると、「リッツってコツコツ型ですね」と言われます。すごく地味なのですよ。その地味な努力が、華やかな表面を支えているわけです。これはNHKも同じではありませんか。

矢野 はい。おっしゃるとおりです。ホテルのサービスはお客様一人ひとりに合わせて行われるものですから、マニュアルとは縁遠い、どちらかと言えば臨機応変なものという印象を持っていたのですが、マニュアルがあるのですね。

「型」をやり続けることが
自信につながる

【第10回】<br />「リッツ式」か?「NHK式」か?<br />一分で一生の信頼を勝ち取る法<br />高野登×矢野香対談【後篇】矢野 香(やの・かおり)
スピーチコンサルタント。信頼を勝ち取る「正統派スピーチ」指導の第一人者。 NHKキャスター歴17年。おもにニュース報道番組を担当し、番組視聴率20%超えを記録した実績を持つ。 大学院では、心理学の見地から「話をする人の印象形成」を研究し、修士号取得。 現在は、国立大学の教員としてスピーチ研究を続けながら、政治家、経営者、上級管理職、ビジネスパーソン、学生などに「信頼を勝ち取るスキル」を伝授。 相手に与える印象の分析・改善力に定評があり、話し方・表情・動作を総合的に指導。全国から研修・講演依頼があとをたたない。 著書に、ベストセラーとなった『その話し方では軽すぎます!――エグゼクティブが鍛えている「人前で話す技法」』(すばる舎)などがある。 【著者オフィシャルサイトはこちら】

高野 マニュアルというと、何となくネガティブなイメージを抱く人が多いと思うのですが、私は「型をつくる」ためにも、マニュアルは絶対に必要だと考えています。日本の茶道や武道などの世界には「守・破・離」といって、師弟関係を示すよい言葉があります。

 まずは師匠に言われた型を「守る」ことによって修行を始めますが、ある程度、修行を積んでくると、徐々に自分に合った型を採り入れようとします。これが、師匠から言われた伝統的な型を破るということで「破」の段階ですね。そして、さらに修行を積み重ねると、徐々に師匠から教わった型から離れていく「離」の境地に到達するというものですが、この境地に達するためには、伝統的な型を理解するとともに、自分の技や心の在り方などを把握しておかなければ、なかなか実現しません。だからこそ、最初に師匠から教わる型が大事なわけですが、まさにその現代版、ビジネス版が「マニュアル」であるわけです。

矢野 NHKでは、バラエティの司会者にしてもスポーツ系のアナウンサーにしても、最初はニュース読みの訓練をさせられます。アナウンサーとして絶対に押さえておく必要がある型は、ニュース原稿を読めるということだと私は思います。型をやり続けることが、自信につながりますね。