数年前に、ゴルフのホールインワン保険に加入した。インターネットで申し込んだものなので、毎年、電子メールで更新の通知が届き、マウスをカチカチと操作するだけで手続が終わる。

 保険代理店での対面交渉であれば、雑談などで1時間は浪費するのだろうが、ネットであれば数分で終わる。ダイレクト系(ネット)損害保険が急速に普及している理由なのだろう。

 保険業界から流布した用語に「モラルハザード」がある。「保険に加入すると、保険の対象となる事故を避けようとする適切なインセンティブを持たなくなる」(『スティグリッツ・ミクロ経済学』第4版482頁)ことをいう。

第124回コラム(ユニクロ編)で、シートベルトの義務化がドライバーのモラルを低下させ、交通事故件数をかえって増加させている、という話を紹介した。それと同根である。

 ゴルフ場へ行くたびに「今日こそは、ホールインワンを目指すぞ」と、モラルハザード全開なのだが、いまだに一度も「事故」に遭遇したことがない。グリーン横にあるバンカーや池の「おいで、おいで」の誘惑に負けてしまうようだ。

 今回は、ホールインワン保険の「手数料負け」に多少の恨みを抱きつつ、損害保険業界を扱う。本連載では、第81回コラムで東京海上ホールディングス(以下、東京海上HD)と、T&Dホールディングス(太陽・大同・T&Dフィナンシャル生命)を扱って以来だ。

第81回コラムで、「3メガ損保」のうち東京海上HDしか扱わなかったのは、MS&ADインシュアランスグループホールディングス(以下、MS&AD)と、損保ジャパン日本興亜ホールディングス(以下、損保HD)の経営統合の日が浅く、決算データが十分でなかったからだ。なお、各社の略称については、カッコ内のものでご了承願いたい。

 十分なデータが揃ったからといって、2014年6月期までの業績推移を並べてみると、保険・銀行・証券などの金融業界の業績は、「相変わらず安定しないな」と呆れてしまう。第114回コラムで扱ったメガバンクしかり、第109回コラムで扱った楽天しかり。

 ROAやROEを並べた月並みの分析で終わるかどうかは、分析する側の腕次第だといえるだろう。