財務省VS安倍首相

 安倍晋三首相は、18日夜の記者会見で、消費税再増税を18ヵ月先送りし、衆議院を21日に解散すると言明した。

 首相を解散の決断に至らせた理由はさまざまだろうが、やはり財務省の圧力をはね返すには他に手はないと感じたからだろう。

 最近のメディアのこま切れの報道から浮かび上がるのは、財務省、自民党増税派対首相と菅義偉官房長官との抗争の構図であった。

 安倍首相はかねてからの成長派。再増税して景気回復を台無しにすることは耐えられないことだ。おそらく、菅官房長官も同様で、しかも2人とも珍しく財務省に取り込まれていない政治家だ。

 1994年3月の細川護熙首相は、当時の大蔵省とそれに追随する政党に押し切られて「国民福祉税7%」の記者会見をして退陣に至った。他にも財務省(大蔵省)の増税攻勢によって不本意な方向に進み退陣を余儀なくされた首相は少なくない。

 安倍、菅コンビの官邸は正面からこの圧力に抗した初めての例ではないか。その点では評価するにやぶさかではない。

安倍首相の大誤算は
想定外に低いGDP速報値

 しかし、この決断に際して安倍首相の最大の誤算は、17日に発表された7~9月のGDPの低過ぎる数字であった。そして、この数字によって、安倍首相の解散の決断は、裏目に出る可能性が高まったのである。

 当初、民間エコノミストたちの予測は、ほぼ年率換算でプラス2%から4%の間に集中していた。最近になってプラス1%台との予測もあったがごく少数であった。

 だが、実際に発表された数字は、なんとマイナス1.6%だったのである。特にこの「マイナス」と言う言葉によって、内外に強烈な衝撃を与えることになった。

 要するに、「プラスとマイナスでは天と地ほど違う」のだ。7~9月期が、4~6月期に比べて実質0.4%減(年率1.6%減)ということは、景気後退に入りつつあると言われても仕方がない。一部で7~9月期は「V字回復になる」と言われたが、事実は、さらに谷を深く降りてしまったのだ。これを「天候不順」などを大きな理由として指摘するのは姑息な言い逃れに過ぎない。