食品・小売業界では、久びさの明るい話題だ。4月1日から40~70歳の被保険者に、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の健診(特定健康診査)の義務化が始まった。メタボと診断されれば栄養指導や運動指導が行なわれるが、その対策用の関連商品の売り上げ増が見込める。

 メーカーではすでに商品の開発競争が過熱している。ビール系飲料では4月16日にサッポロビールの「ビバライフ」が発売され、大手4社で糖質ゼロの発泡酒が出揃い、さながら“ゼロ戦争”だ。

 売り上げ予想は強気だ。昨年3月いち早く糖質ゼロの発泡酒「スタイルフリー」を発売したアサヒビールは、今期1000万ケース(前期比約2割増)を目標に掲げる。同社は発泡酒市場に占める糖質ゼロ商品などの販売シェアは、40%(前期36%)近くまで伸びると見込んでいる。

 花王「ヘルシア」やサントリー「黒烏龍茶」に代表される機能茶市場でも期待は高い。花王は今後2ケタで市場が伸びると予想する。

 ほかにもアサヒ飲料が4月8日に発売する糖類ゼロの缶コーヒー、「ワンダ ゼロマックス」など、健康に配慮した商品は挙げればきりがない。

 小売業界も、またとないチャンスととらえ、売り場づくりにも熱が入る。

 首都圏中心に店舗展開する中堅コンビニエンスストアチェーン、スリーエフでは、「売り上げが芳しくなく棚からはずしていた健康系商品を、消費者意識が高まると見て棚に戻すオーナーが多い」(平野康成・スリーエフ商品本部チーフマーチャンダイザー)という。

 なぜこれほどまで熱を帯びるのか。それは、人口減と少子高齢化で縮小する飲料・食品市場で、唯一この閉塞感を打破できる可能性を秘めているからだ。

 ビール系飲料市場では若者の酒離れや健康志向で消費者は離れる一方だったが、糖質ゼロの発泡酒が揃うことで買い控えていた消費者が戻り、また購買頻度の増加が期待できる。

 コンビニ業界にとっても同様だ。健康系商品は継続して飲むことで初めて意味を持つため、来店頻度の増加が見込める。飲料は、気温で売り上げが左右されがちだが、継続性はそのリスクを低減させることができる。

 さらに前述の機能茶は価格が一般のお茶よりも約30%高い。お茶などの飲料はもともと粗利益率が約40%と高いところに、単価アップで収益の増加が見込める。コンビニの既存店売上高は、前年割れが8年も続いている。鼻息が荒くなって当然なのだ。

 「量」の拡大が見込めないなかで、「頻度」と「価格」の両面から収益増が見込める今回の制度改定。長年の頭打ちを破る“メタボ特需”に業界が抱く期待は高い。


(『週刊ダイヤモンド』編集部 片田江康男)