税金のムダづかい削減を掲げた民主党への政権交代を目前に控え、建設業界が揺れている。9月3三日、国土交通省は「新しい大臣の意向に従う」(谷口博昭事務次官)としてマニフェストで中止が公約された群馬県の八ツ場(やんば)ダムの入札延期を発表した。周辺工事はほとんど終了、本体工事を残すのみの段階にある八ツ場ダムだが、マニフェストで掲げたムダ削減の“シンボル”でもあり、このまま継続する可能性は薄い。同時に挙げられた熊本県の川辺川ダム、補正予算で発注が予定されていた事業も凍結が見込まれる。

 そして今、建設業界が恐れるのは“次”のヤリ玉だ。じつは民主党の公共事業に対するマニフェストの記述は「公共事業削減で4年間で1兆3000億円を節約」ぐらいしかない。

 小泉構造改革時には年間3000億円が削減されており、この数字自体にインパクトはない。だが「八ツ場ダムのように、すでにかなり進行している大型事業ですら中止の対象になる、という前例ができるのが怖い。これをきっかけに今後、東京外環自動車道や整備新幹線などの他の大型事業も見直すと、業績への打撃は甚大だ」とある大手ゼネコン幹部は懸念する。

 2008年度の公共工事の発注額はピーク時の半分以下の1182億円にまで落ち込んだ。このうえに外環道計画などの見直しも含むハードランディング路線を民主党が採るなら、公共事業頼みの地方ゼネコンはもとより、スーパーゼネコンクラスへの影響も免れない。「来年度の土木事業の予算は当分決められない」(別のゼネコン幹部)との見方まである。

 さらに、往時のあからさまな選挙協力はすっかり鳴りを潜めたものの、建設業界は長年、自民党政権を支えてきた。この総選挙でも土木工業協会(土工協)は自民党への推薦状を出している。それだけに、業界は新政権との付き合い方をどうすべきか決めかねている。土工協の中村満義会長(鹿島社長)もいまだ「自民党の大敗は大変残念。民主党とはなにか特段の問題が発生しない限りは、特に定期的にコンタクトをする必要はない」と言うほどだ。

 民主党に心証が悪い公共事業や国交省、ひいては建設業界が、改革の目玉として“粛清”されるという最悪のシナリオが実現するのかどうか。業界は固唾をのんで16日の組閣を見守っている。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木洋子)

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