企業不祥事や事故などの報道が拡大解釈されたり、連鎖反応を起こしたりすることで、特定の企業や業界、団体などに経済的被害をもたらす「風評被害」。いわば、「噂による被害」であるが、インターネット上の掲示板、ブログやSNS等をはじめとしたソーシャル・メディアが浸透するにつれ、「人の噂も七十五日」とは悠長なことを言っていられないような事態になってきている。

 ネット上での風評は、瞬く間に広範に伝播する。さらには、最近では、ネット上での火種がテレビや新聞などで報道されることも少なくない。そうなると、短期的・直接的な経済被害のみならず、「企業の評判」が低下することで被害が長期化する危険性があるのだ。

 「ネット風評」への対処は、けっして容易くない。インターネット上の書き込みは削除しづらく、かつ、安易に消すことで、かえって話題が大きくなる場合もある。専門的ノウハウの必要性が認識され、求められつつあると言えるだろう。こうした社会的ニーズに応え、「ネット風評被害対策」が、リスク管理ビジネスのひとつの切り口として、浮上してきている。

「ネット風評被害対策」がリスク管理ビジネスとして浮上
電通パブリックリレーションズ「ネット風評バスターズ」概要図。違法性の判断などの法務面、社内対応力強化など、多様な側面からの対策を提案する。

 去る8月20日、電通パブリックリレーションズは、ネットリスクモニタリングを行うガーラバズ、法務コンサルティングを行うTMI、企業損害保険の観点からリスクマネジメントを行うAIGCSと連携し、インターネット上での風評被害に対するソリューションサービスの開始を発表した。名づけて、「ネット風評被害バスターズ」。

 同サービスの特徴は、ネット風評リスクの予知・予測、予防・回避から、リスク発生時の対応策の提案、実施、信頼回復まで、すべてのフェーズでの対策を盛り込んでいること。かつ、それぞれのフェーズでの対策も、ネットモニタリング、法務面、社員教育など、さまざまな側面から支援するサービス内容となっている。サービスラインナップとして「緊急対応パック」「予防パック」を設定。顧客の状況によって個別に適切なサービス内容を組み合わせて提案する「アラカルトコース」も用意している。

 短時間で広範囲に広がるネット上での風評をいち早く感知する=「火種が小さいうちに発見するという側面では、専門技術面での研究成果も既に発表されている。

 富士通研究所は、風評の「パターン」がますます複雑、多様化している現状に対応するために、複数の風評パターンを一括して高速検知する独自技術を開発。従来技術では、風評パターンが多数になればなるほど検知時間も増えていたが、同研究所が開発した技術を用いると、大量かつ多様な風評パターンを一括して高速に検知することが可能になる。また、従来は高速な検知が困難であった複雑なパターンも検知できる。同研究所では、10万件も大量の風評パターンを対象にした実証実験も終えており、「Web上での犯罪予告検知などにも応用が可能」とも表明している。

 風評被害というと、一般消費者を顧客としている企業群に関わりのあるものだと考えられがちだが、ネット風評が引き起こす「企業の評判」の低下は、業態の差異などに関わらず、すべての企業の競争力低下に結びつくものだ。それだけに、「ネット風評対策」を切り口としてリスク管理ビジネスのマーケットは大きく広がっているとも言えるだろう。

(梅村 千恵)