専務が社員を味方につけクーデターを
社長が追われ倒産に至った企業の悲哀

 本連載「黒い心理学」では、ビジネスパーソンを蝕む「心のダークサイド」がいかにブラックな職場をつくり上げていくか、心理学の研究をベースに解説している。

 最近、知人が関わっていたある会社組織が崩壊した。メンバーは10人にも満たない小さな組織で、当初は皆仲良くやっていた。お互いの気心も知れているはずの組織だった。

 だが、個人的な確執がきっかけで、社長と専務が対立するようになった。この会社では、社長が対外的な宣伝や交渉事を行い、専務以下の社員は会社で業務を行うという役割分担があった。社長も普段は、常に一般社員との交流を図っていたのだが、専務との確執があって以来、専務は自分の部下を含む一般社員に、社長の「悪口」を吹きこみ、自分の味方につけてしまった。

 多勢に無勢となってしまい、社長は退任することを決意。専務以下のメンバーは、自分たちで会社運営を続行するつもりだった。

 特に専務の旗頭となった経理責任者の社員は、「社長がいなくても我々はやっていけるんですよ。社長は疲れ過ぎて、業務運営もまともにはできないでしょう。ここは我々に任せてください」と、やさしい口調で社長を追い出そうとしていた。その社員は、社長が対外的に会社の「顔」として、メディアなどから取材を受けるのを妬んでいたらしい。

 だが、社長はわかっていた。自分が退いたら会社は倒産することを。

 社長退任が決定し、それまでお世話になった顧客の方々にその旨を伝えた途端、同社には契約解消の報が続々と舞い込んだ。これだけ小さな会社ならば、社長はほぼ営業も兼ねている。顧客と直に接し、現場の意見を吸い上げ、よりよいサービス提供のために奔走するのは社長なのだ。専務以下の社員にはそのノウハウがない。

 取引先はみるみる減っていった。新規顧客開拓のノウハウも持たない専務以下の社員たちは、右往左往するばかり。結局、社長の予測通り、倒産するしかなくなったのだった。