NKKやGEにて人事の要職を歴任し、現在は、LIXILグループで執行役員および人事の責任者を担う八木洋介氏のWeb上戦略人事塾。
第1回と第2回では、経営に資する人事が具体的に行うことの概略、
また「戦略人事」と、今の日本企業の人事の現状はどう違うのかについて述べてきた。
第3回目となる今回は、「人事スタッフに求められる要素」について解説する。

失敗のオンパレードから
人のことがわかる

 今回は、人事にはどんな人が向いているのかを、私の経験も含めてお話ししたいと思います。

 前回、「人事は、人を監視するポリスマンではなく、みんなのやる気を引き出し、応援するチアリーダーたれ」と述べました。

 人事にポリスマンの役割を求めるのなら、人事スタッフは誰より頭がよく、仕事もできて、心理学などの知識もあり、「あの人に言われたら仕方が無いよね」と納得せざるを得ないような人が向いているのかもしれません。

 しかし、チアリーダーになるのなら、人間味豊かで、人の心に響く言葉をたくさん言える人のほうがいいでしょう。

 そのためには、その人自身が“失敗”をたくさん経験し、そこから自分自身のプリンシプル(原理原則)を見つけ出していることが重要だと、私は考えます。

 私に関して言えば、子どもの頃から今日に至るまで、「失敗のオンパレード」と言えるほど、たくさんの失敗を経験してきました。

 失敗は、確かに楽しい経験ではありませんが、その一つひとつを振り返り、「あの時なぜ、正しいことができなかったのか」ということを徹底的に分析する。
 そのことでたいていの人が「なぜ物事から逃げるのか」「なぜ、必要もなく怒るのか」「なぜ不満を言うのか」ということを理解できるようになります。

 また、「自分は、後ろ向きのエネルギーをいかに前向きに切り替えられたのか」「自分は何を克服してきたのか」を思い出すことにより、自分の中に大きなエネルギーが湧き上がってくるのです。

“自分の中にある何か”が
人の心を打つ

 「行列ができる人事屋」をめざしているとすでにお話ししましたが、そうやって多くの人と接する中でわかったことがあります。

 人は誰でも、後ろ向きでいるより、前を向いたほうがいいということは薄々わかっている、ということです。

 だから、やる気が無くなっている人、後ろ向きになっている人たちに対し、自分が体験したこと、自分が失敗したことの中から選び出した自分なりの言葉で励ませば、相手の心にその言葉が突き刺さります。

 それを単なる知識に基づいて「心理学の本にはこう書いてあるから、こうするんです」といったところで、心には届きません。

 もちろん、頭の中を整理するために心理学などの学問を学んだり、アドバイスを効果的にするためにコーチングを学んだりすることも大切です。

 けれども、“自分の中にある何か”をそれらと結び付けて、自分の言葉として相手にぶつけなければ、相手は動いてくれないのです。

 ですから、勉強することも大切ですが、いろいろなチャレンジをして成功や失敗をする中で、多種多様なことを身をもって学んだ、人生経験豊富な人のほうが、人事には向いていると思います。