ここのところ、ガソリンや食料品の一部などが、原材料費の高騰を背景に値上げされている。東京都ではタクシー料金の値上げが発表された。消費者物価指数は対前年比でわずかにゼロ以下なのだが、生活実感としては、インフレ前夜のような感じがなんとなくある。現在の公的年金がインフレに弱いこともあり、少し心配だ。

 目下のインフレ的な動きは、ファンド資金の商品市場への流入に後押しされている面があり、原油や金など投機対象になりやすい商品価格が激しく動いている。

 一次産品の価格上昇は、企業物価の上昇に表れている一方、消費者物価がいまだ上昇していない。これは、企業にとっては価格転嫁が進んでいないということであり、粗利の圧迫要因だ。需要全般の拡大を背景とするインフレの場合、初期のステージでは企業の利益が拡大しやすいが、現状では、そのような状況になっていない。

 世界景気全般の拡大を伴わない場合、一次産品の価格上昇は長続きしないはずなのだが、ファンド資金の動きが上昇を後押しする状況が続くと、米国の金融緩和期待に水を差す可能性があり、株価上昇の制約要因になる。

 他方で、今後しばらく、米国の不動産市況の後退が景気や企業業績のマイナス要因として働く可能性がある。この場合は一次産品価格の上昇にも緩和が見られようが、やはり株価には好ましくない。インフレが心配だから、今すぐに株式投資だという状況ではない。

 目下の状況を「インフレ前夜」と100%決めつけるのは危険だろう。

 サブプライム・ローン問題の発生以降、米日を含む世界の主要国の成長率予想が、2~3ヵ月前に比べると軒並み1%程度下方修正されている。都市圏の労賃が上昇する傾向がやっと見えてきており、今のところ日本国内の景気の歯車はまだ前向きに回転しているようなのだが、再び景気が冷え込む可能性もある。