シアトルマリナーズのイチロー選手が、日米通算3086安打の新記録を樹立しました。“Baseball” を“野球”と訳したのは、明治草創時代の学生野球の育ての親といわれた、中馬 庚(ちゅうま かのえ)という人だそうです(*1)。小学生の頃、小さな空き地で“野球”をしていた私にとっても、“野球”という言葉は、子ども心にもしっくりと実感できる、巧妙な訳語だったのだと、あらためて思います。

 でも、近頃の日本語訳は、“Sustainability”を“持続可能性”と訳すなど、何となく直訳的な感じで、しっくりと実感できないものが多いように思えます。先日、気の置けない仲間の集まりで、この話題を持ち出したところ、「“Sustainability”ってのは、『これからもずっと、やっていける』ってことだよ」と言われました。なるほど、これなら、しっくりきませんか?

だれの記憶にもある
「緑の石鹸液」の仕掛け人

環境配慮型商品のパイオニアが行き着いた<br />「人にも、動物、植物にもやさしい経営」
サラヤといえば「ヤシノミ洗剤」

 今回ご紹介するサラヤ株式会社は、“Sustainability”な環境経営で多くの賞を受賞している企業です(*2)。「ヤシノミ洗剤で有名な」と言えばご存知の方も多いのではないでしょうか。

環境配慮型商品のパイオニアが行き着いた<br />「人にも、動物、植物にもやさしい経営」
薬用石鹸液「シャボネット」で手を洗う子どもたち

 この会社は、まだ石痢や疫病などの伝染病が多発していた戦後間ない1952年に創業されました。こうした時代にサラヤは、伝染病の“予防”のため、手洗いと同時に殺菌・消毒ができる液体の薬用石鹸液を日本で初めて考案し、事業化しました。皆さんも小学生の頃、学校の手洗い場で緑色の液体石鹸で手を洗ったことがありませんか?。

 実はこの写真の石鹸液容器も、サラヤが考案し製造したものなのです。石鹸液だけでなく、容器も製造した理由を更家悠介社長に伺ったところ、「当時は、液体石鹸そのものが存在していなかったので、容器からつくるしかなかったんですよ」とおっしゃっていました。今でも、液体石鹸と容器の製造を1つの会社で行なっているのはサラヤだけ、とのことです。

 このケースのように、「世の中に存在しない、新たな製品を普及させるためには、仕組みづくりから始めなければならない」ということは、これまでの連載でも書いている通りです。でもよくよく考えてみると、今のように社会が便利になったり、高度化する以前は、ビジネスを仕組みづくりから始めることは、当然のことだったのです。

 現代社会でもしも、「環境ビジネスが、なかなかビジネスにならない」というのであれば、それは新しい製品や価値観を、既存の社会システムに無理に乗せようとしているだけで、それを普及させるための仕組みづくりをしていないからなのかもしれません。

「手洗いは、衛生の基本」
私たちに刷り込まれた予防の概念

 サラヤは創業以来、「手洗いは、衛生の基本である」との信念に基づき事業展開をしています。伝染病や食中毒の“予防”のための手洗いです。「消費者のニーズ」という、世の中が求めた“結果”に応えることを企業活動の原点に据える企業が多い中、“予防”という概念を企業活動の原点に据えていることは、とても珍しいことではないでしょうか?

 更家社長にこの点も伺ったところ、すぐに「保険だって、予防みたいなものですよね」という答えが返ってきました。でも、これまで「保険≒予防」と考えたことがなかっただけに、意外な答えに思えました。これはどういう意味なのでしょうか?