停電しても、搭載されたバッテリーを使って機能を継続する複合機が注目されている。普通紙に高速高画質印刷できるプリンター機能の他、ファクス、コピー、スキャナーの4機能を備える。“レガシーデバイス”であるはずのファクスが、停電時には重要な通信機器になることに注目。情報通信機器の災害対策として導入が始まっている。

石原崇史
リコージャパン
マーケティング本部 DS事業センター
プリンター事業推進室 プリンター商品グループ アシスタントマネージャー

 きっかけは、東日本大震災でリコー自らが経験したことにあった。

「停電のために東北地方の生産拠点と通信が途絶し、唯一残された災害対策用の公衆電話回線の電話では、伝言ミスや聞き間違い、伝え忘れなどで正確な情報のやりとりが難しい状況でした。改めてファクスの必要性を確認したのです」と明かすのは、マーケティング本部・プリンター商品グループの石原崇史アシスタントマネージャーだ。

 こうした状況は、自社だけに限らないはず。文書のやりとりが可能な情報通信機器が必要ではないか──。そうした思考から、バッテリー搭載インクジェット複合機「RICOH SG 3120B SF」は開発された。地震はもちろん、大雪や雷などで発生する突発停電という環境下でも、公衆電話回線の通信網が機能していれば、ファクスが利用可能なのだ。

災害時にこそ必要な
機能を稼働させる

 大規模災害時には、プリンターやコピーの機能も必要性が高まる。学校や市民センターなどの公共の避難場所では炊き出しや入浴支援などの情報伝達手段として、また復旧作業などの打ち合わせの際には、作業地点や内容の確認などにおいて、手書きでの筆写ではなく、プリンターやコピーが稼働していれば、迅速に対応できるはずだ。

 搭載されているリチウムイオンバッテリーは、1時間当たり約100枚印刷した場合でも約7時間稼働する。連続印刷枚数は約1000枚。ファクス送信は約300枚、受信は約200枚が可能だ。予備のバッテリーを購入しておけば、さらに稼働時間を延長できる。本体前面のUSBポートからはスマートフォンなどに電源供給が可能で、排紙口にはLED照明を搭載し、暗闇でも文書の有無が確認できる工夫が施されている。

電源ケーブルレスで
多彩なシーンに対応

 しかし、停電時のためだけにコストを掛けて通信機器やオフィス機器を導入することは現実的ではない。同機は「普段の業務で使いながら、停電時でも同様に使える複合機が、開発コンセプト」(石原氏)であるため、日常業務でフル活用できるスペックを有している。

 また、電源ケーブルレスで持ち運べる特性を生かして、据え置きタイプでは考えられなかったシーンでも活用されている。

「屋内外のイベント会場で資料などのコピーに使ったり、教育の場では、タブレット端末を利用した授業で教室でのプリントアウトに、小学校の運動会では、本部テントに持ち込んで着順が決まり次第その場で賞状の印刷に使われるなど、多彩な用途で活躍しています」(石原氏)

 さらに、インクジェット方式であるため、インクを紙に吹き付けて紙を移動させるだけのシンプルな構造で、熱を使うレーザープリンターに比べて消費電力は少ない。だからこそ日常業務のサポート機器として導入するメリットがあるのだ。

 多年経過しているファクスの買い替えや複合機導入の際の予備機として、停電時でも稼働するバッテリー搭載のインクジェット複合機は、魅力ある選択肢の一つになるだろう。